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【パテック フィリップ】5905で初のSS仕様となる実用コンプリケーション

 ブランドのステータスにふさわしい外装素材として、主にゴールドやプラチナといった貴金属をフィーチャーしてきたパテック フィリップだが、市場ではステンレススチールモデルの人気が高い。これはノーチラスやアクアノートといったスポーティブなモデルがブランドの人気を先導し、エレガントでありつつもカジュアルな雰囲気を併せもったモデルに引かれているユーザーが多いという背景があるためだろう。こうしたステンレス人気をパテック フィリップとしても無視できないのか、2021年は魅力的なモデルを市場に投入してきた。いままでゴールドとプラチナでしか展開されてこなかった年次カレンダー搭載フライバック・クロノグラフ 5905で初のステンレススチール仕様がそれだ。

年次カレンダー搭載フライバック・クロノグラフ 5905/1A
■Ref.5905/1A。SS(42mm径、14.13mm厚)。3気圧防水。自動巻き(Cal.CH 28-520 QA 24H)。679万8000円

 まず外装から見ていこう。ステンレスといってもそこはパテック フィリップであるため、研磨や仕上げのクオリティは非常にハイレベルだ。曲線を帯びたラグのラインは洗練されており、ケース全体の立体感はメリハリがあって造形美を感じさせる。ポリッシュ仕上げの精度も高い。ケース径は42mmと現行のステンレスモデルとしてはオーソドックスだが、同ブランドの時計だと考えるとやや大きめに感じる。さらに厚みは14mmを超えており、腕に装着するとややぽってりした印象だ。しかし、それで装着感が悪いということはないし、むしろボリュームが存在感を強くアピールしてくる。オリーブグリーンソレイユのダイアルはいまのトレンドに合っているし、発色が良くて美しい。

 ブレスレットはポリッシュとサテンを使い分けたスマートな3連タイプで、バックルには4つの留め金を装備している。パテック フィリップではこのバックルの特許も取得しており、高いクオリティが装着感を高める意味でも一役買っている。

 クロノグラフはシンプルなひとつ目(60分積算計)で、カレンダー表示は左から曜日・日付け・月表示となっているほか、インダイアルの30秒位置に丸窓で昼夜表示も装備。多機能なモデルながらダイアルは見やすくまとまっており、このあたりはデザイン力の高さを改めて痛感させられる。カレンダーは年次仕様で月の大小は自動的に送られるため、年1回の3月1日以外は調整不要だ。

 搭載されているムーヴメントはCal.CH 28-520 QA 24Hで、これは2006年に初登場した同社自慢の自動巻きフライバック・クロノグラフ。垂直クラッチとコラムホイールによる動作方式で、贅を凝らした技法を採用していることは言うまでもなく、パーツの面取りや装飾も美しい。サファイアクリスタル・バックからはカラトラバ十字が入った大きなローターも含め、その姿がのぞける仕様になっている。パワーリザーブは約55時間と実用性が高いが、一方で若干惜しいのは、防水性能が3気圧と日常生活防水レベルなことだ。本格ダイバーズとまではいかなくとも、せめてノーチラスと同程度くらいまでスペックを上げれば、アクティビティなどよりカジュアルなシチュエーションでも使いこなせそうなのだが。

 ともあれステンレススチールの時計をここまで念入りに仕上げてくるブランドは、パテック フィリップ以外にはまず考えられないだろう。機能面もデザインの美しさも当然のようにハイレベルで、この路線が発展していくと、ノーチラスやアクアノートとは違ったスポーツウオッチの提案が生まれるかもしれない。そうした意味では非常に注目に値するモデルだと思う。価格は700万円近いが、同社の新作ステンレス製クロノグラフとくれば、市場の注目を集めることは必至だし、一方で生産本数はさほど多くないだろう。となると、高額モデルであっても店頭での争奪戦は間違いないわけで、市場の反応まで含めて興味深いモデルだ。

 

【問い合わせ先】
パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター TEL.03-3255-8109
公式サイト https://www.patek.com/ja/

構成◎堀内大輔(編集部)/文◎巽 英俊/写真◎笠井 修

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