男性の憧れを具現化したキャラクター、ジェームズ・ボンド。映画『007』シリーズでおなじみのスパイだが、その立ち振る舞いやタフさといったパーソナリティだけでなく、新作のたびに彼が作中で愛好する嗜好品も、そのチョイスが絶妙で大きな話題となる。特に映画に登場するクルマと時計、すなわちボンドカーとボンドウオッチはストーリー上でも重要な役割を果たすツールとして、実際の市場でも人気が高いことは説明するまでもないだろう。
過去のシリーズではロレックスのサブマリーナー、グリュエン、ハミルトンのパルサー、セイコー クォーツなども登場したが、ここ最近のボンドウオッチはオメガの独断場だ。特にボンドはシーマスターがお気に入りの様子で、無骨でシンプルなデザインがその腕によくマッチしている。今回は先ごろ公開された新作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』に登場する「シーマスター ダイバー300M 007 エディション」をピックアップしよう。
シーマスター ダイバー300M 007エディション
■Ref.210.92.42.20.01.001。TI(42mm径/12.99mm厚)。300m防水。自動巻き(Cal.8806)。95万7000円/チタンブレス仕様。Ref.210.90.42.20.01.001。108万9000円
シーマスター ダイバー300M自体はオメガの定番コレクションとして、すでに高い人気を誇るモデルだ。ステンレススチールにブルーのベゼルとダイアルを合わせた爽やかなデザインが特徴的だが、007モデルはそれとはかなり雰囲気が異なる。ケース素材はチタンに変更され、基本カラーもブルーではなくトロピカルブラウン。ブレスレットも通常の5連ではなくミラネーゼブレスになっており、ベーシックモデルと比べると全体にヴィンテージ風のデザインを意識したテイストだ。念が入ったことにインデックスも陽に焼けて色が褪せたようなヴィンテージスーパールミノバを塗布している。ここ数作のボンドウオッチはかなり現代的なデザインのシーマスターが中心だったのだが、今回はクラシカルなデザインの回帰が顕著だ。特にトロピカルブラウンダイアルとインデックスのコンビネーションは絶妙で、この色味だけでやられる人も多いだろう。こうしたクラシカルなテイストは新作映画のストーリーラインにも微妙に関係しているのかもしれないし、その辺をいろいろ想像するとより楽しめる。
外装にチタンを使ったことで、時計自体は非常に軽く仕上がっている。しかもこのチタンの素材が非常にハイクオリティだ。使われているのはいわゆる純チタンと呼ばれるグレード2チタンで、純度が高いがゆえに加工が難しいことで知られているが、マットな質感のヘアラインをちゃんと入れてきており、オメガの並々ならぬ加工技術の高さを感じさせる。ダイアル上にあしらわれたブロードアロー(英国の官制品であることを示す矢印のようなアイコン)もさりげないが雰囲気をうまく高めているし、抜き針のデザインもかっこいい。
時計自体の軽さに加えて、装着感をさらに高めているのがミラネーゼブレスだ。このブレスレットもチタン製なのだが、筆者がいままで見てきたミラネーゼブレスの中で最も完成度が高い。手触りが柔らかく非常にしなやかに腕にフィットするし、バックルの質感も上々で堅牢性も高そうだ。このブレスレットだけでもこの時計を買う価値があると思わせるくらい素晴らしい。オメガの現行ラインナップでミラネーゼブレスを合わせたモデルは少ないが、今後はもっと前面に推してもいいのではないかと感じさせる。もしもジェームズ・ボンドらしく振る舞いたいのなら、NATOベルト仕様という選択肢もいいだろう。
搭載されているムーヴメントは、オメガでも上位クラスのコーアクシャル マスタークロノメーターのCal.8806。ベーシックなシーマスター ダイバー300MはCal.8800や8801を搭載しているが、8806はそのノンデイト版となる。精度に加えて、1万5000ガウスに耐える耐磁性の高さでも定評がある。パワーリザーブも約55時間と余裕があり、実用性は非常に高い。ヘリウムエスケープバルブやネジ込み式リューズといったダイバーズウオッチとしての基本的な機構は、定番のシーマスター ダイバー300Mと同様だ。
キャラクターウオッチではあるのだが、ダイアルには特に007の表記はなく、ケースバックにブロードアローとともに、本物の軍用時計を模した数字やコード、ロゴが刻印されている程度。これ見よがしでないため使いやすい。ボンドウオッチというプレミアム感を差し引いても時計としての完成度は高く、ちょっと渋い顔つきの本格ダイバーズを探している人にはぜひお勧めしたい。フルチタンの外装を考えると、約100万円の価格も納得いくところだろう。
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構成◎堀内大輔(編集部)/文◎巽 英俊/写真◎笠井 修