A.“カッコウ時計”が正式名称
毎正時に鳩が飛び出して鳴くというギミックを備えた鳩時計。古い歴史があり、伝承に従うならば、ドイツ、シェーンヴァルトで生まれた時計技術者、フランツ・アントン・ケトラーによって1738年に鳩時計の原型が作られた。
だが実は、鳩時計が正式名称ではないのはご存じだろうか。正式には、時計から出てくる鳥は“カッコウ”。つまり、正式名称は“カッコウ時計”となるのだ。ではなぜ鳩時計と名称が改まったのか。まずはカッコウ時計の歴史からおさらいする。
カッコウ時計はシュヴァルツヴァルト(ライン川の上流に位置するドイツ南部の地方。通称“黒い森”)地方のトリベルク地区発祥。黒い森と言われるように、シュヴァルツヴァルトは森林資源に恵まれており、木工品作りが盛んであった。誕生してから、カッコウ時計はたちまち人気を博したと言われている。ちなみに原型は“シュヴァルツヴァルトのモミの木に止まって鳴いているカッコー”の姿をイメージして作られた。
その後、鉄道の技術者が踏切小屋をヒントに山小屋風のイメージを考え出し、広く普及しているカッコウ時計のデザインである、小屋からカッコウが出てくる時計が完成したという。
小屋から飛び出すタイプの鳩時計が作られる前の、ごく初期のカッコウ時計。写真左はシュヴァルツヴァルト製。どちらもフルトヴァンゲンの時計博物館蔵
カッコウ時計の原型が生まれた、そのおよそ200年後の1930年頃(昭和初期)に、カッコウ時計が日本に流通。そして日本での呼び名がカッコウから鳩に変わってしまったというわけである。
これには、ハトは平和のシンボルだからや、カッコウは日本の子供たちに馴染みがなかったからなどの様々な説がある。なかでもいちばん有力なのが、カッコウを漢字で表すと閑古鳥となってしまい縁起が悪いからという説。
かつて掛け時計は主に家や店の新築・開店祝いによく使われた。ただ“閑古鳥が鳴く”というのは意味合い的にもイメージが悪く、祝い事に向かない。
そのためカッコウ時計を国内に広く普及させるためにも、ハトが選ばれたというのだ。カッコウ時計の象徴である、ふいごで出す鳴き声が似ていたこともちょうど良かったようである。
文◎松本由紀(編集部)
参考文献:織田一朗『知ってトクする 時と時計の最新常識100』(ホーム社、2000年)P224〜P226
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