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【知っておきたい腕時計の基本】複雑機構であるトゥールビヨンにも種類がある

 時計の複雑機構でも最も高度なものといわれるトゥールビヨンは、19世紀初頭に天才時計師アブラアム=ルイ・ブレゲが発明した機構だ。これは姿勢の動きによって生じる時計のズレを、ムーヴメントの一部を回転させることで解消しようという発想から生まれている。
 一般的なトゥールビヨンでは1分で1周する4番車(秒針の動きを司る)にキャリッジというカゴのようなパーツを設け、その中にテンプやゼンマイなどを搭載する。キャリッジ内に納められたテンプは1分かけて回転することで姿勢を変え、重力の干渉を適度に分散させることができる。
 精度の安定性を高める実用機構であることに加えて、テンプの動きがダイナミックなため、眺めていてもかなり楽しいのだが、動力源が回転するということは、それだけ組み立て・調整が難しいというわけで、かつては世界でもわずか数人の時計師しか手がけることができないといわれていた。それだけに価格も数千万円クラスが当たり前で、庶民にはなかなか手が届かないものだった。

 そんな高嶺の花だったトゥールビヨンも、ここ10年ほどで低価格化が進みつつある。これはCADを駆使したレーザー加工や3Dプリンターなど、精密加工技術がハイテクによって急速に進化したためだ。以前より微細なパーツが大量製造できるようになったおかげで、タグ・ホイヤーが2016年に100万円台のトゥールビヨンモデルを発売して話題をさらったほか、“中華トゥールビヨン”などと呼ばれる安価なムーヴメントを用いた時計が10万円台の価格で登場。かつてよりもはるかに身近な存在となった。

 そんなトゥールビヨンにも実はいくつか派生がある。今回は、こうした派生と、一般的なトゥールビヨンとの違いとあわせて解説しよう。

 

トゥールビヨン

回転するキャリッジの中にテンプ、ヒゲゼンマイ、脱進機といった時計の心臓部を収納し、主に1分間かけて1回転させるすることで、姿勢差による重力の影響を解消する機構。超複雑機構ゆえごく一部の高級機種に採用され、しかもクロノグラフやミニッツリピーターなど別の複雑機構を兼ね備えたモデルも多い

 

フライング・トゥールビヨン

ケージ上部に付いていたブリッジを廃し、下部のブリッジのみで支えるようにしたことで、テンプが中空に浮かんでいるかのように見える。実際に浮かんでいるわけではないが、見た目の美しさから人気が高い。1920年にグラスヒュッテ時計製造学校のアルフレッド・ヘルヴィッヒが開発した機構だ

 

3Dトゥールビヨン

キャリッジが水平だけでなく垂直方向にも回転するという正に3D仕様のトゥールビヨンで、2軸(もしくはそれ以上)による回転によって重力分散がより効率的になる。キャリッジは球体のようで、その動きの複雑さからも時計ファンの支持を得ている。写真はパーネルの3軸トゥールビヨン

 

 ちなみにトゥールビヨンと似た機構としてカルーセルが知られている。トゥールビヨンが通常の主輪列でキャリッジを動かすのに対して、こちらはキャリッジの駆動と調速を別の輪列で行う方式を採っている。

文◎堀内大輔(編集部)

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