自動巻き機構といえば、多くの人が“ローター(錘)がぐるぐると回る”メカニズムを思い浮かべるであろう。実際、現代の自動巻き機構のほとんどは、その“全回転ローター式”を採用したものだ。これは、ロレックスが1931年に完成させた実用的な自動巻きムーヴメントが全回転ローター式だったという影響も大きい。
ロレックスが完成させたパーペチュアル機構はローターの回転運動によってゼンマイを巻き上げるメカニズムとなっている
その後、ロレックスの自動巻きモデルが成功を収めると、他メーカーもこれに追随し、自動巻きモデルの開発に着手するようになるのだが、当時ロレックスのパーペチュアル機構はパテントで保護されていたため、他メーカーはそのメカニズムを模倣できなかった。そこで独自の自動巻き機構を開発するのだが、なかには実にユニークなメカニズムをもつ自動巻きムーヴメントも存在している。
今回は、そんな自動巻き黎明期に生まれたユニークな自動巻きムーヴメントを紹介しよう。
ピアーズ
1940年代に製造されたピアーズ製の自動巻きモデル。ベースムーヴメントを覆う金色の錘が腕の振りなどで上下することで、それに付属したノコギリ状のパーツがベースムーヴメントの歯車を動かして巻き上げを行う仕組みをもつ
ビューレン
1940年代にビューレンが開発した自動巻きムーヴメント。ベースムーヴメントを覆うようにラグビーボール形の錘が、写真上部中央にパーツ(自動巻きユニット)を支点にして左右に振れることでゼンマイを巻き上げる仕組みとなっている
ブレゲ
実は腕時計が生まれるずっと前の懐中時計時代にも自動巻き機構は開発されていた。これは1795年頃に製造されたブレゲの懐中自動巻き時計。ムーヴメント内部にある錨のような形状をした振り子が動くことでゼンマイを巻き上げる。自動巻き機構自体は、当時革新的な発明だったが、それが普及するのずっと後の腕時計時代になってからだ
このほかにも、黎明期には様々な自動巻き機構が発明されているのだが、いま現在そのほとんどは残っていない。つまりそれだけロレックスが採用した全回転式のメカニズムが優れていたということだろう。
文◎堀内大輔