名作を輩出しつつその後に歴史を閉じた“ニベダ”が復活
ニバダ・グレンヒェン(以下、ニバダ)は、1879年にヤコブ・シュナイダーによってスイス・ジュラ地方のグレンヒェンに設立された時計ブランド。1980年代以降に事業を解体していたが、2020年に劇的な復活を遂げて時計好きの間で話題となった。今回は、日本未上陸ながら、魅力的なコレクションを展開する新生“ニバダ”を紹介していく。
ニバダが全盛期を迎えるのが1950年代から60年代のこと。自動巻きの黎明期と言える30年代前半にすでに自動巻き時計を製造していたニバダは、その後も勢力的に腕時計の開発と技術開発を継続し、50年に防水自動巻き時計“アントアークティック”を発表する。この時計は55年から56年にかけてアメリカ海軍の南極探検のミッション“ディープ・フリーズ・1チーム”で採用され、二バダの時計は過酷な環境下でも使用に耐える堅牢で信頼性の高い時計として知られるようになる。
実用時計の分野で時計ブランドとしての地位を確立したニバダは1960年代に入ってからさらに積極的にコレクションを拡充していく。
1963年には、200m防水のクロノグラフ“ニバダ・グレンシェン・クロノマスター”を発売。クロノグラフ、タキメータースケールに加えて、ダイビングや第2時間帯表示のための回転ベゼル、セーリングレガッタのカウントダウンなどの機能をフルに装備していたこの名作は、パイロットウオッチ、ダイビングクロノグラフ、セーリングやレガッタなどマリンスポーツ用の計時にと、多方面で支持を集め、70年代後半に生産が終了するまで、ニバダのロングランヒットモデルとなった
翌年の64年にはダイバーズウォッチ“デプソマティック”を発表。水深計(バティメーター)を搭載した初めてのダイバーズウォッチで、この水深計はベゼルの内側、 水圧計はベゼルの外側にあった。さらに、65年には100気圧(1000m)の圧力に耐えられる時計“デプスマスター”を発売。このモデルは発売当時、世界で最も防水性の高い時計のひとつであり、実用時計の名手として、ニベダの名前をさらに知らしめることとなった。
時計ブランドとしての黄金期といえる1960年代を経て、躍進を続けるかと思われたニバダであったが、70年代後半のクォーツショックにより機械式時計はシェアを落とし始め、1980年代には事業解体することになる。
そんなニバダに転機が訪れたのが創業から100年近くが経過した2020年のことだ。19年に、かつてジャガー・ルクルトやゼニスで働き、時計ブランド“William L. 1985”を立ち上げた、ギョーム・ライデとプライベートブランドの時計メーカーであるモントリシャール・グループのオーナーであるレミ・シャブラが、ニバダの使用ライセンスを取得。
前述したニバダの象徴的モデルである、“クロノマスター・アビエイター・シーダイバー”、“デプスマスター”、“アンタークティック”という三つの名作をリニューアルしたヘリテージコレクションを展開し、新たな歴史を刻み始めている。
上の写真は“クロノマスター・アビエイター・シーダイバー”の復刻モデル。左側にオリジナルモデル、右側に新生ニバダの復刻モデルを配置しているのだが、二つを見比べて見ると、その再現度の高さが実感してもらえるだろう。オリジナルのデザイン要素やテクニカルな特徴を継承しながら、現在のニーズにマッチしたコレクションを復興させたニバダ。その動向と日本での展開に期待をしたい。
クロノマスター・アビエイター・シーダイバー
Broad Arrow Automatic
1960年代に発売されたオリジナルのデザイン要素を継承し、ペリフェラルタキメーター、バトンマーカー、幅広のアローハンド、30分積算計のレッドセクター(レガッタのカウントダウンとして使用)など、特徴的な機能、デザインを再現した復刻モデル。ドーム型サファイアガラスを採用し、ムーブメントはセリタを搭載。機械式クロノグラフとしては現在の時計市場では珍しい38.3mmのコンパクトなケースにより、アンティーク感の漂う良作に仕上げられている。
◾️SS(38.3mm径)。10気圧防水。自動巻き(Cal.SW510 BH B)。1940スイスフランより(約23万4740円〜)
パックマン デプスマスター
1965年に発売された初代“ニバダ・デプスマスター”と同じ仕様の100気圧(1000m)防水備え、さらに現代のニーズに合わせて飽和潜水用の自動ヘリウムエスケープバルブを搭載して進化を果たしたオーバースペックダイバーズウオッチ。ムーヴメントはセリタのCal.SW200を搭載。驚異的な防水性能を備えつつ、ケースサイズは39mmと程よいサイズ感に仕上げられているのも好印象だ。
◾️SS(39mmサイズ)。100気圧(1000m)防水。自動巻き(Cal.SW200)。920スイスフラン(約11万1320円)
》Nevada Grenchen(ニバダ・グレンヒェン)公式サイト
https://nivadagrenchenofficial.com/
文◎William Hunnicutt
時計ブランド、アクセサリーブランドの輸入代理店を務めるスフィアブランディング代表。インポーターとして独自のセレクトで、ハマる人にはハマるプロダクトを日本に展開するほか、音楽をテーマにしたアパレルブランド、STEREO8のプロデューサーも務める。家ではネコのゴハン担当でもある。
https://www.instagram.com/spherebranding/