前回のロレックス通信No.92では、1988年に登場したデイトナの自動巻きモデル、Ref.16520を取り上げた。そこで今回はその後継機として2000年にリリースされ、現行デイトナのひとつ前に当たるRef.116520を取り上げる。
Ref.116520を語るうえで外せないのが、デイトナ専用としてロレックスが自社開発した自動巻き式のクロノグラフムーヴメント、Cal.4130の存在だ。そのため今回はこのムーヴメントについて、要点を簡単にまとめてみたい。
ロレックスは、1930年代初頭という時計史上においてもかなり早い段階にベーシックな自動巻きムーヴメントを自社開発し、それを搭載するモデルは“バブルバック”の愛称で呼ばれるなど歴史にその名を刻む。そのためある意味では自動巻き式のパイオニア的な存在といえるのだが、ことクロノグラフムーヴメントに至っては手巻き時代も含めても、すべて他社製だった。
2000年から2016年まで製造された16年年間は第3世代のRef.6263と6265の17年に次ぐロングセラーとなる
自動巻きクロノグラフムーヴメント自体は1969年にすでに誕生していた。ロレックスの技術力からすれば、もっと早い段階でも作れただろうに、なぜ2000年まで作らなかったのかは正直なところわからない。
しかし、あくまで筆者の憶測にすぎないが、前回(No.93)の記事でも触れたように、デイトナ自体が世界的ブームとなったのは1989年ごろからで、それまではまったく不人気だった。クロノグラフムーヴメントの開発は極めて難しい。そのためこのデイトナブームが自社開発を進める、ひとつのきっかけとなったとしても何ら不思議ではない気がする。
さて、デイトナがこれまで使っていたのは、手巻きデイトナに採用されたバルジュー社の72系や、前回取り上げたRef.16520に搭載されたゼニス社のエル・プリメロ(自動巻き)といった、いわゆるクロノグラフの名機だ。つまりこれらをベースに独自に改良を加えてきたというわけである。Cal.4130は、長年にわたる様々な技術的改良をとおして研究を積み重ね、そのノウハウをもとに6年の歳月を費やして完成させたいわば集大成だ。
ロレックス初の自動巻きクロノグラフムーヴメントであるCal.4130。写真左上にあるテンプ(金色のもの)には、ブルーに酸化処理が施された独自開発のパラクロム ヒゲゼンマイが見える。ただ、このブルーは2008年頃からで、それ以前はブルーではなかった
その特徴は大きく二つ。まずひとつは、実用性を重んじるロレックスらしい合理的な設計にある。ちょっと技術的なことになるため詳しい内容は割愛するが、最もわかりやすいところでいうと、クロノグラフ機構とゼンマイを自動で巻き上げる機構を裏ブタ側に一元化して、アフターメンテナンスの際の作業性を格段に向上させるコンパクトな設計を実現したという点である。
そして二つ目は、精度面に対する強化だ。まず、精度を司る心臓部であるテンプ部分を支えるブリッジを両側からのダブルブリッジ式にし、テンプに付くヒゲゼンマイには、ロレックスが独自に開発した耐磁性が高く温度変化にも強い合金、パラクロムという素材が、スタンダードな3針自動巻きムーヴメントに先駆けて採用された。しかも、70時間パワーリザーブをも実現するなど、まさにロレックスの最新技術の粋を集めて完成させた高性能キャリバーなのである。そしてこのCal.4130は、後継機として2016年に登場した現行のRef.116500LNにも引き続き搭載された。
旧型デイトナのRef.116520は、現行に比べてデザインは控え目なぶん、ファッション的にはスポーツモデルながらも比較的に合わせやすい
もちろんRef.116520の魅力はムーヴメントだけではない。実用性という意味ではもうひとつ特筆すべき点がある。それは絶妙なサイズ感だ。40mmだがケース厚は12.4mm(16520よりも0.2mm、現行よりも0.1mm薄い)と最近のクロノグラフにしてはかなりスマートだ。そのため装着感は抜群に良く大きさもそれほど感じさせない。とかくデザインやスペックに気を取られがちだが、これも116520の魅力的なところと言えるのではないか。
現在の実勢価格の中心は200万円台半ばから300万円台前半。生産期間中のマイナーチェンジは少なく、しかも16年間というロングセラーだったこともあって、前回取り上げた16520に比べたら絞りやすいかもしれない。ちなみに、現行デイトナの中古は黒文字盤で350万円ぐらいで流通している。