アンティークウオッチの場合、たとえダイバーズウオッチであっても、またはオーバーホールを終えたばかりであっても基本的に防水性は保証されない。
その理由は、ひと言で言えば“古いものだから”にほかならないのだが、ではなぜ古いことが防水性が保証されない理由に繋がるのかを改めて解説したい。
機械式時計にとって、“水”はいまも昔も大きな弱点である。なぜなら主に金属で構成されるムーヴメント内部に浸水してしまうと、パーツがサビて動かなくなってしまうからだ。
この弱点を克服すべく開発されたのが、内部に水を侵入させない構造を採用した“防水時計”である。ケースだけに限っていえば、遅くとも1920年頃には気密性を高めた構造が色々と開発されていたが、問題はゼンマイの巻き上げや時刻設定のために開け締めをすることが多かった“リューズ部分からの浸水をどう防ぐか”であった。
この問題の解決策のひとつとして、ロレックスが26年に提示した防水構造が“オイスター”である。
ケース自体をネジ込み式にして気密性を高める発想は以前よりあったが、ロレックスのオイスターではこれに加えてリューズもネジ込み式を採用し、優れた防水性を実現した。なおオイスターの防水性がいかに優れているかを証明するため、当時メルセデス・グライツ嬢がこれを着用し、泳いでドーバー海峡を横断したエピソードが有名である。
ロレックスが生んだ世紀の発明“オイスター”。その名が示すとおり二枚貝に由来しており、この発明が時計界に大きな影響を与えた
しかし、時計界全体で見れば防水仕様の時計が増え始めるのは40年代近くになってから。それまでのほとんどの時計が非防水であり、そもそも防水仕様となっていないのだから、いまも防水性が保証されないのは当然なのである。そのため40年代以前に作られたアンティークウオッチは特に注意が必要だ。
特に1940年以前は防水仕様となった時計が少ない。裏ブタも気密性がそれほど高くないスナップ式が大半だった
1940年代以降はゴム製のパッキンが使われるようになり気密性も向上。ただゴム製のパッキンは劣化しやすいため、定期的に交換する必要がある
防水時計の有用性が徐々に認められると、次にはいっそう高防水仕様の時計が求められるようになった。防水構造に関する研究・開発が進められ、50年代になると高い防水性を実現した“ダイバーズウオッチ”という新たなジャンルが誕生している。
技術の進化や新たな発明により、60年代にはいまの時計とも遜色ない200m防水以上の時計も開発されているが、いかに当時高い防水性を誇った時計であっも、今日において防水性は基本的に保証されない。なぜならパーツが経年により劣化していたり、ケースが変形していたりする可能性も否定できないからだ。このことは80年代、90年代に製造された時計であっても実は同じ。
時計の防水性はあくまで製造時点におけるものだということを覚えておきたい。
文◎堀内大輔(編集部)