いまでは当たり前のように使われている時計のクリスタル風防だが、実は一般的に導入されるようになったのは1960年代後半くらいからで、その歴史は意外に新しい。ロレックスでも80年代までプラスチック風防を使っていたほどで、70年代あたりだと加工の難しいクリスタル風防は、それだけで高級モデルの証でもあった。
国産時計で初めてクリスタル風防を採用したのは、65年に誕生したシチズン クリスタルセブンだ。このモデルは薄型自動巻き時計として位置付けられていた高級ラインで、名前の“セブン”が意味するのは、12時位置の曜日表示に由来する。高性能をアピールしていた割に比較的価格がこなれていたため、当時としては大ヒットを記録し、60~70年代のシチズンを代表するモデルのひとつとなっていた。
そのクリスタルセブンは過去にも何度か復刻されてきたが、2021年の2月には“RECORD LABEL(レコードレーベル)”シリーズの1モデルとして“C7(シーセブン)”という新たなペットネームでリリースされている。今回の復刻はあくまで当時のクリスタルセブンに“インスパイアされた”という触れ込みなのだが、その再現性は高く、往年のシチズンファンにもかなり響くのではないだろうか。RECORD LABELは、“シチズンがこれまでに生み出してきたデザインの記録と、お気に入りの空間でレコードを聴くように時計に親しむ”というコンセプトをもったシリーズゆえ、C7の登場は当然の流れといえるだろう。
■Ref.NH8393-05A。SS(40.2mm径、めっき)。5気圧防水。自動巻き(Cal.8200)。2万7500円
C7のサイズは40.2mmだが、オリジナルのクリスタルセブンはモデルバリエーションの違いがあるがおおよそ37mm前後だったことを考えると、やや現代的にサイズアップされている。厚みも13.1mmあって、いまの基準で考えると、決して厚くはないが特に薄型というほどでもない。腕に着けてみるとむしろややボリュームを感じさせて、存在感はかなり強い。かといって着け心地が悪いわけではなく、フィット感はまずまず。40.2mmというサイズも程よく、ワイシャツに合わせても袖口は気にならない。現代のトレンドを考慮したベストなサイズ感と言えるだろう。
全体のデザインはベーシックな3針でかなりスマートだ。一見シンプルなバーインデックスは多面カットされており、この価格帯のモデルとしてはかなり頑張っている印象だ。オリジナルを踏襲したクラシカルなルックスだが、やはりアイキャッチとなるのは12時位置のメーカーロゴ下にある曜日表示の小窓。これがレトロな雰囲気を強調している。小窓はモデル名そのままにさりげなく7角形になっているのだが、これはオリジナルのクリスタルセブンと同様だ。往年の国産時計ファンにはかなりグッとくるポイントだろう。3時位置のカレンダー表示も小振りながら見やすくできており、全体にシンプルな文字盤デザインだけに視認性は高い。
搭載されているムーヴメントは21石のCal.8200。主に中級機に採用されている国産のベストセラームーヴメントだ。量産機とはいえ、40年以上の歴史がある機械だけに安心感は高い。しかもこのC7は裏ブタがスケルトン仕様になっているので、このムーヴメントの動きを見た目でも楽しむことができる。特に美しい仕上げが施されているわけではないが、Cal.8200独特の大きなローターの動きはかなり迫力があるので眺めていて楽しい。この辺も機械式時計初心者にお勧めできるポイントだ。
モデルバリエーションとしてはブレスレットの素材違い、ケースや文字盤のカラー違いなど、トータルで5モデルがラインナップされている。オススメは高級感あるトーンのゴールドカラーケース。基本デザインのレトロテイストと相まって、ゴールドとはいえまったく嫌味のない印象で、ビジネスシーンでもスマートに使えると思う。デザイン的にもファッションや年齢層を選ばずに使えるベーシックで使い勝手の良いモデルで、ディテールの仕上げも価格以上の質感を備えている。アンダー3万円の時計としては非常によくできているし、フレッシュマンが新調する時計としてもお勧めできる1本だ。
構成◎堀内大輔(編集部)/文◎巽 英俊/写真◎編集部
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