前回はミヨタ社の自動巻きムーヴメントが中国需要の増大により1年半待ちになったことについて触れた。今回は最初に手がけたコンプレダイバー1960の開発にあたって、ミヨタ社の自動巻きムーヴメントのなかでもプレミアムとして位置づけられている9000系を採用した理由について書いてみたい。
アウトラインを設立して最初のモデルが1960年代のコンプレッサーダイバーをモチーフに製作したコンプレダイバー1960(上の写真)である。開発していた2018年は、ミヨタ社の自動巻きも、先に述べたように1年半も待つという状況にはなく、4カ月ぐらいで納入されたと思う(たぶん)。しかも幸運にも9000系自動巻きのCal.9015が搭載できたのだった。
アウトラインとして最初にリリースしたコンプレダイバー1960、タイムギアオンラインショップで販売中だ。4万9500円
ミヨタ製自動巻きにはスタンダードな8000系とプレミアムと呼ばれる最上位機種の9000系がある。違いはもちろん性能だ。8000系は振動数が毎時2万1600振動なのに対して9000系は毎時2万8800振動のハイビート機だ。そのため精度も-10秒から+20秒(8000系は-20秒から+40秒)と高く、当然そんぶんムーヴメント自体の価格も8000系に比べてかなり高い。
ただ、精度もさることながら、時計を製品化するにあたって、けっこう重要なのがムーヴメントの高さ(厚み)なのである。ケース径に対してムーヴメント自体の径はかなり小さいためケース径が31mm ぐらいの小振りサイズでも作れる。よって8000系でも9000系であっても現在主流となるメンズモデルのケースサイズに十分余裕があるためなんら問題はない。
8000系では13.65mm だったケース厚も9000系に変更したことで、12.7mmと約1mm薄くすることに成功した
しかしケース厚となるとそうはいかない。着けていて邪魔にならないサイズとなると理想は12mm台までと言われているからだ。しかしながら自動巻きの場合はムーヴメント自体の厚みもあるため余裕はあまりなく、1mmであっても薄くするのに苦労する。
コンプレダイバー1960の場合、通常のダイバーズウオッチと違い、回転ベゼルが風防の内側、つまり文字盤の外周部分にあるため、構造的に厚くなってしまう。しかも、風防もレトロ感を出すためにフラットなものではなく全体が少し出っ張ったボックス型にしたため、余計に厚みが増してしまった。
ベゼルより少し出っ張ったボックス型の風防を採用したため、さらに厚みが増した
しかも当初は8000系ムーヴメントを想定して開発していたため、結果的にケース厚は13.65mmとかなり厚くなってしまったのだった。しかし、構造的にこれ以上ケースに対して手を加えることは不可能。そこで選んだのがムーヴメント自体が8000系よりも2mm近く薄い9000系ムーヴメントを採用することだった。つまり、精度を優先したのではなく、実は厚さを抑えることが一番の理由だったのだ。
当初想定していた定価よりも高くはなってしまったが、結果的には性能といい、全体の雰囲気といい、ファーストモデルながら理想的なバランスで作ることができたというわけである。
コンプレダイバー1960の詳細はアウトライン公式WEBサイトで!