ドイツ時計 @kikuchiのいまどきの時計考

時計愛好家を魅了するドイツ高級ブランドの機械に施されたグラスヒュッテ様式とは!

 ドイツ・グラスヒュッテ製の時計について、1回目に原産地証明、2回目としてグラスヒュッテの町を取り上げたが、最後に、高級機のムーヴメントでよく耳にする言葉“グラスヒュッテ様式”について触れておきたい。

 “グラスヒュッテ様式”と言われても、時計好きの方以外はほとんど知られていないのかもしれない。これは、グラスヒュッテに本拠を構えている時計メーカーが、グラスヒュッテ製の高級モデルの証として、ムーヴメントに施す美しい仕上げの総称みたいなものである。

 では、そもそもこのグラスヒュッテ様式とはどのようなものを指すのかを、意外に漠然としている部分も多いため、筆者が以前に刊行したドイツ時計の専門誌『ドイツ腕時計 No.4|ドイツ品質』から引用して以下に整理してみたいと思う。

 元来、グラスヒュッテ様式とは4分の3プレートのようにムーヴメントの地板や受けが大きく頑丈な作りのことを指していた。それが今日では、A.ランゲ&ゾーネの創業者、アドルフ・ランゲが1867年に最高品質規格として明文化した1A(ワンエー)クオリティの仕様を、現在のA.ランゲ&ゾーネがムーヴメントに再び採用したことに始まる。

 それが装飾としても見た目が美しく、グラスヒュッテのほかの時計メーカーも高級機に取り入れたことから、広い意味で使われるようになったというのが実情のようだ。その代表的なものとして挙げられるのが次の四つなのである。

1、 洋銀製4分の3プレート

ムーヴメントの4分の3を覆う大きさから4分の3プレートと呼ばれる

 上の写真を見るとわかるが、受け板(プレート)がムーヴメント全体の4分の3を覆う大きさからこう呼ばれる。1860年代にアドルフ・ランゲによって導入されたと言われているもので、歯車等をすべてひとつのプレートで支えることで、組み立てやすくすると同時に、安定性を向上させるというものである。また、その素材に真鍮ではなく洋銀を使っている点も特徴。洋銀はジャーマン・シルバーと呼ばれ、銀の代用品としてかつてドイツで作られた特有の合金を表している。

2、グラスヒュッテストライプ

陰影が美しいグラスヒュッテストライプ

 ムーヴメントの4分の3プレート全体に施されている、美しい縦縞模様の装飾のことである。グラスヒュッテのメーカーが使うことからこのように呼ばれる。一見、単調に思えるが、ストライプにはまさに波打つかのようなわずかな凹凸が付けられるなど繊細な作りだ。そのため光の加減で陰影が生まれ、洋銀製ならではの温かみある色合いと相まって、高級感をより高めてくれる。洋銀の特性でもある経年変化によって淡い黄金色に変わる点も魅力だ。

3、ビス留め式ゴールドシャトン

石(ルビー)を押さえる18金の輪を青焼きされた三つのビスで固定する仕様をビス留めゴールドシャトンと言う

 1Aクオリティに定められた仕様で、ルビーやダイヤモンドなどの受け石を18金の輪で固定し、さらにその輪は耐蝕性を高めるために青焼きされた三つのビスで留められている。かつてルビーは天然モノを使用していたために破損することも多く、交換の際にこの部分だけの作業で済むよう考案されたものだ。ただ現在は強度が高い人工ルビーも多く、その場合はあまり必要としない。見た目も美しく、いまや高級仕様のための装飾的な意味合いが強い。

4、エングレーブ入りテンプ受け

テンプの受け部分に美しい装飾が手彫りされている

 テンプ受けの装飾もゴールドシャトンと同様に1Aクオリティに定められたムーヴメントの仕様である。テンプ受けとは時計の心臓部を固定する洋銀製のブリッジのことで、ここに手作業による繊細なエングレーブが施されているものだ。また同時に、その上にはスワンネック(白鳥の首のような形から呼ばれる)緩急針も採用されている。まさに1800年代半ば以降に作られた当時のランゲ懐中の魅力をいまに伝える仕様である。

菊地 吉正 - KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。

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