セイコーはグランドセイコーやクレドールなどの高級機だけでなく、腕時計の大衆化を推し進めた点でも大きな功績がある。その普及モデルの代表格がセイコー5だ。
セイコー5のルーツは、1963年に発売されたスポーツマチック5である。シンプルな自動巻きモデルだが、デイデイト表示と防水機能を備えており、当時としては高い実用性を誇っていながら、価格はリーズナブル(8300円。ちなみに60年に発売された初代グランドセイコーは2万5000円だった)に抑えられていた。そのため特に若者たちの間でヒットし、腕時計の普及に大きく貢献したモデルとなった。68年にはセイコー 5スポーツとして進化し、防水性能の向上や強化ガラスによる堅牢性、夜光塗料による暗所での視認性アップなどスペック向上が図られていった。
その後のセイコー5は、5 アクタスや5スポーツ スピードタイマーなどの派生ラインも生まれ、60~70年代にかけてエントリーラインとして絶大な人気を博した。年季の入った時計ファンにも、初めて手に入れた時計はセイコー5だったという人は少なくない。実際に中学・高校の入学祝いとして贈られたケースも多く、思い出深い時計としていまでも状態の良い個体を探している愛好家は少なくない。“ファイブ”の意味するところは、自動巻き、防水、デイデイト表示、4時位置リューズ、耐久性の高いケース&バンドという5大機能にあり、価格を抑えながら機能と性能の充実をさせた国産時計の真骨頂といえる。しかしクォーツショック以降はリーズナブルな機械式時計の存在意義が徐々に薄れていき、セイコー5は海外向けとしては生き残ったものの、日本国内の販売はなくなってしまった。
そのセイコー5が、2019年に新生セイコー 5スポーツとしてリローンチされた。日本国内での販売も再開されたのである。当時のセイコー5が確立していたシンプルでスポーティブなテイストをうまく継承しつつ、スペックは大幅に向上。それでいてリーズナブルな価格はキープしており、エントリー機械式時計としては完成度の高いモデルに仕上がっている。新しいセイコー 5スポーツは、多様な感性や価値観が飛び交う現代を象徴する“5つのスタイル”をデザインコンセプトに、5つのコレクションを展開している。ラインナップには回転ベゼルを備えたダイバーズ風デザインのモデルが目立つが、今回はごくシンプルなプレーンベゼルのSBSA047をピックアップしてチェックしてみよう。
■Ref.SBSA047。SS(40mm径)。10気圧防水。自動巻き(Cal.4R36)。3万800円
まず文字盤は3針に、ルミブライトのドットインデックス、デイデイト表示とシンプルだがバランスが良い。40mmというケースサイズも絶妙だし、ケースの質感も価格を考えれば十分満足いくものだ。厚みは11.5mmと意外に薄く、それだけに袖口でのフィット感は見た目以上に良い。スーツなどに合わせても邪魔にならないだろう。防水機能も10気圧防水とオリジナルのセイコー5から向上している。装着感の良さも相まって使えるシチュエーションは非常に広がっている。
搭載されているムーヴメントはCal.4R36。4R系はプレサージュなどで使われている普及価格帯向けのムーヴメントで、6振動の安定した駆動とハック機能搭載が持ち味となっている。パワーリザーブは約41時間と実際の使用ではまず問題ないだろう。普及価格帯向けの機械だけにパーツの細かな仕上げ加工まではされていないが、SBSA047は裏ブタがスケルトン仕様になっており、このムーヴメントの動きを眺めることができる。この動きを眺めているとなんともかわいらしく愛着が湧いてくる。シースルーバック仕様の時計を持っていない人はちょっと食指が動くのではないだろうか。
全体にシンプルで使いやすい時計だが、デイデイト表示などの遺伝子はオリジナルをちゃんと受け継いでおり、オールドセイコーファンにも魅力的な製品に仕上げられていると感じる。なにより3万円台そこそこの価格で、ここまでしっかりした作りの機械式腕時計を提供できるメーカーは、世界的に見てもセイコーくらいだろう。セイコー 5スポーツはすでにロックバンド「クイーン」のブライアン・メイ、ゲーム「ストリートファイターV」やアニメ「NARUTO」など、多様なコラボモデルをリリースしているが、今後も機械式時計のエントリー層に積極的にアピールしていってほしいところだ。
構成◎堀内大輔(編集部)/文◎巽 英俊/写真◎編集部
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