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【ビギナーの疑問を解決】時計ムーヴメントの素材として注目される“シリコン”のメリットは?

 時計好きなら知っておきたい基本事項だが、意外とどういったものかをちゃんと理解していないという人も多い基本の「キ」をわかりやすく紹介。
 今回は、ムーヴメント素材として注目される“シリコン”について解説したい。

基本性能を向上させるハイテク素材

 近年、ムーヴメントにシリコン製パーツを導入するケースが増えている。
 このシリコン素材にいち早く目を付けたのがユリス・ナルダンで、同社がシリコン製脱進機を採用したのは2001年のことである。その後、様々なメーカーがシリコン製パーツを導入しはじめたは10年以降。具体的にはパテック フィリップやオメガ、ゼニスなどが積極的に導入している。
 では、なぜ近年シリコン製パーツを導入するメーカーが増えてきたのだろうか。ここで改めてのそのメリットについておさらいしておきたい。

シリコン製の脱進機、ガンギ車、ヒゲゼンマイを採用するユリス・ナルダンのCal.UN-118。同社はいち早くシリコン素材に注目したメーカーで、2001年には実用化。シリコン製パーツの先鞭をつけた

 シリコンがムーヴメント素材として注目された理由のひとつは非磁性素材であるということだ。
 というのも、現代社会において求められる性能のひとつに“耐磁性能”が加わっていることはご存じだろう。腕時計に耐磁性能をもたせる構造は、これまでIWCに代表されるようなムーヴメントをインナーケースで保護する方法が主に用いられてきた。

 この構造でも優れた耐磁性能を発揮できることは証明済みだが、一方で厚みが出てしまうことは避けられなかったのである。スポーツ系ウオッチなどであればそれも許容できる範囲であったが、ドレス系ウオッチで採用するにはいささか無理があったのも確かだ。
 そこで、ムーヴメントのパーツそのものを非磁性素材で成形してしまおうという発想である。この場合、ムーヴメントをインナーケースなどで覆うことなく、耐磁性が得られるというわけだ。

 シリコン素材のもうひとつのメリットは摩擦が少ないという点だ。理論上、摩擦損失が少ないほどに駆動効率は良くなる。
 そのためシリコン素材は歯車類のパーツとして適しており、とりわけ1時間に2万回以上(振動数によっては3万6000回以上)の接触を繰り返す脱進機に打ってつけの素材なのである。
 さらに面が平滑であるため、ガンギ車への注油の必要がなくなるなどメンテナンス性の向上にも繋がるなど恩恵は大きい。そもそもシリコン素材が注目されたのは、無注油化に狙いがあったとされているほどだ。
 また金属に比べて軽量であるため、精度に遅れを与える脱進機誤差も軽減される。つまり精度も改善されるというメリットもあるのだ。

 これほどのメリットがあるのならば、各社が積極的にシリコンを採用すればよいと思うだろう。
 しかし、冒頭にも述べたとおり、シリコン製パーツは01年にユリス・ナルダンがいち早く採用して以降、10年近く追随するメーカーがほとんどなかった。
 理由は、その効果のほどが定かではなかった点もあるが、それ以上にパーツの成形が非常に困難だったことのほうが大きい。

 それも近年、ハイテク加工技術が確立され、解消されつつある。そのためいまでは量産機にもシリコン製パーツを採用するメーカーもあるほどだ。

 

文◎堀内大輔(編集部)

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