時計好きなら知っておきたい基本事項だが、意外とどういったものかをちゃんと理解していないという人も多い基本の「キ」をわかりやすく紹介。
今回は、時計の性能表示などでよく目にする“クロノメーター”について解説したい。
時計を選ぶ際の指針のひとつにもなる
今回テーマとするのはクロノメーター。クロノグラフと混同する人もいるようだが、クロノグラフはストップウオッチ機能(またはその機能を備えた時計)のことを言うので全然別モノだ。
一方のクロノメーターというのは、スイスの公的独立機関COSC(スイス公認クロノメーター検定協会/一般に“コスク”と呼ぶ)による認定試験に合格して認定を受けた、簡単に言えば精度が良い時計を指す。
以前までロレックスではクロノメーター認定を受けたことの証明として上のタグが付属していた(注:現在は独自の「高精度クロノメーター」規格を導入しているためタグが変更された)
このクロノメーターというのは実は100年以上前からあったのだが、かつては時計メーカーが独自に認定できたためにあまり信頼に足るものではなかったと言われている。
そうした状況から、業界の要請もあって1973年にスイス時計歩度公認検定協会がスイスクロノメーター協会に組織変更し、76年にはクロノメーター規格をベースとして国際標準規格ISO3159を制定。より厳格な品質検定のひとつしてスイス製時計の信頼性を世界的に高めてきた。
認定を受けるためにどんな基準を満たせば良いのかは、下の「COSCクロノメーターの認定基準値の項目」を見てもらうとして、先に紹介したCOSCでは、この項目にある数値が一定の範囲内に収まっているかをテストしている。このテストに合格したムーヴメントだけが晴れてCOSC公認クロノメーターの称号を得られるようになっているのだ。
こんなに細かい!COSCによるクロノメーターテスト
COSC(スイス公認クロノメーター検定協会)認定を得るためには、上記のように15日間にわたる各検査を受け、認定基準値をクリアしていなければならない。公認クロノメーターを取得した時計は、スイスで生産されるわずか数%程度しかない
公的な独立した機関から認定を受けるというと、何だか精度が良い時計であるとお墨付きを得たようにも思われるかもしれないが、これは正しくない。
というのも、時計というのは温度と姿勢の変化に弱い。だが、温度変化と姿勢変化に強い素材のヒゲゼンマイとテンワを使用すると、精密な調整を行わずとも精度が出るようになると言われる。
よって、クロノメーター認定を受けるムーヴメントに温度変化と姿勢変化に強い素材を使えば、かなりの確率で高精度を出すことができるわけで、あくまでも基準をクリアしたことの証明であり、時計の高精度を保証するものではないのだ。
時計の精度は着ける環境や扱い方で変わってしまうので騙されたような気分になってしまうが、少なくとも良い時計を選ぶ際のわかりやすい基準のひとつとは言える。
文◎堀内大輔(編集部)