LowBEAT magazine @kikuchiのいまどきの時計考

【第10回】ポストヴィンテージ時代の腕時計| ポルシェ・デザイン(後編)。1980年前後に登場した傑作3モデルとは。

 ポルシェ・デザインとは、ドイツの伝説的なスポーツカー、ポルシェ911のデザイナーとして知られるフェルディナント・アレクサンダー・ポルシェが、1972年にドイツで立ち上げた会社だ。前回は、その最初に手がけたプロダクトデザインが腕時計であり、時計メーカーのIWCとの提携によって、多くのヒット作を生み出したことについて書かせていただいた。

 その後編として今回は、IWCとの提携時代に開発され、ポルシェ・デザインの存在を知らしめたそんな三つの傑作モデル、コンパスウオッチ、チタニウム クロノグラフそしてオーシャン2000について紹介したいと思う。

<コンパスウオッチ>

コンパスウオッチ。Ref.3511。チタンケース(39mm径)。自動巻き(Cal.37523)。上部の時計部分を持ち上げると、なかからコンパス(写真左)が現れる

 ポルシェ・デザインとIWCが提携して、3年近くの歳月をかけた1978年、最初に発表されたモデルである。その名前のとおり、なんと時計だけでなくコンパスを内蔵しているところが実におもしろい。6時方向のラグにあるボタン操作によって、時計部分が持ち上がり、中からコンパスが現れるという仕組みで、このユニークな発想が当時大きな注目を集めた。ちなみに、製造をIWCが担っていたため、同社のルールに則ったレファレンスナンバーが与えられた。

 また、1時位置と5時位置のラグ部分にある刻みは照準器として使用するためのもの。時計本体部分を持ち上げたその裏側は鏡となっており、遭難時などには太陽の光を反射させることで自分の位置を上空に知らせることができる。

<チタニウム クロノグラフ>

チタニウム クロノグラフ。Ref.3700。チタンケース(42mm径)。自動巻き(Cal.1041)

 コンパスウオッチ発表の2年後、1980年に発表されたのが、チタニウム クロノグラフである。当時、主に航空産業で使用されていたチタニウムを外装素材として用いたことで注目を集めた。ただ、チタンの成形がやはり困難で、リリース自体はもう少し後だったという説が有力となっている。

 チタン製の時計自体は、シチズンが純チタンケースを採用したX-8の発表を1970年としているため世界初ではなかったが、加工が難しいとされる素材を用いながらも、通常ケースよりも突き出ているクロノグラフ操作用のプッシュボタンを、ケースと一体化させて滑らかなフォルムを実現するなど、デザイン性についてはかなり高く評価された。

<オーシャン 2000>

オーシャン 2000。Ref.11101。チタンケース(40mm径)。自動巻き(Cal.37521)

 ポルシェ・デザインで最大のヒット作となったのが1982年発表のオーシャン2000である。最大の特徴はチタンケースに2000mもの高い防水能力を有している点だ。もともと旧西ドイツ軍からの要請で1978年に開発がはじまったとされており、軍用として納入された個体の裏ブタには“BUND”の文字とともにNATOのストックナンバーが刻印されている。

 写真の市販用も基本デザインはほぼ同じ、ベゼルや分針と秒針のカラーリングが変更されている程度で、市販用ながらも軍用に引けを取らない本格派である。また、2000mもの防水性能を誇るハイスペック機ながら、ケースやブレスなど外装のデザイン性の高さは、さすが時計専業メーカーが手がけるダイバーズウオッチとは一線を画す。

 なお、ポルシェ・デザインがIWCとの提携関係にあったのは1975〜98年まで。それ以前にはオルフィナ(72〜75年)と、以降ではグループ企業が買収したエテルナ(98〜2013年)とパートナーシップを結んでいた。

菊地 吉正 - KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。

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