ミリタリーウオッチの歴史を振り返り、その魅力を改めて再考する本連載。
4回となる今回は、大々的なシステム変更を迫られた1970年代のミリタリーウオッチにスポットを当てる。
【ミリタリーウオッチ】の歴史をひも解く|No.01
【ミリタリーウオッチ】の歴史をひも解く|No.02
【ミリタリーウオッチ】の歴史をひも解く|No.03
1970年代(厳密には60年代後半頃)になると、軍事予算が世界的に縮小傾向にあり、従来のようにミルスペックなどの規定に従って時計を製造し、修理しながら運用するというシステムを継続することが徐々に困難になってきた。
そこで考え出されたのが、使い捨てを前提に大幅なコストダウンを図った“ディスポーザブルウオッチ”である。
1960年代後半から大量製造されたアメリカ軍用の“ディスポーザブルウオッチ。ケースにはプラスチックが採用された
このディスポーザブルウオッチが生まれた背景には、当時の時計界の情勢もおそらく無関係ではあるまい。
1960年代後半の時計界では、ムーヴメントもハイビート化によって職人の厳密な調整に頼らずとも精度の高い時計を作ることが可能になっていたし、構造を見直し生産性を高めて、大量生産に舵を切るメーカーも増えはじめていた。
安価ながらも、ある程度の性能は備えた時計を製造することはそれほど難しいことではなくなっていたのである。
またプラスチックが普及したことも大きい。このプラスチックをケースに採用したディスポーザブルウオッチは、耐久性は金属に劣るものの生産性が高く、アメリカ軍用として約100万個も製造されたと言われている。
アメリカ軍を筆頭にディスポーザブルウオッチが標準となっていたが、必ずしも当時の軍用時計のすべてがそうだったわけではない。ディスポーザブル時代のなかでも、確かな品質を与えられたミリタリーウオッチがわずかながら存在していた。
右はアメリカ海軍特殊部隊で使用されたタイプI クラスA(ベンラス製)で、左はフランス空軍(ドダンヌ製)に納入されたタイプ21である。いずれもコストをかけて作り込まれた軍用時計の最後の世代と言えよう
しかし、その後、安価なクォーツウオッチやデジタルウオッチが登場し、これらもミリタリーウオッチに取り入れられた。
こうしてミリタリーウオッチは貴重品であることを完全に捨て去ることとなったのである。
今日、安価に購入できる高精度なクォーツウオッチが普及し、兵士個人でも容易に入手できるようになったことから、時計を制式装備品として導入する軍は少なくなっている。
文◎堀内大輔(編集部)/写真◎笠井 修