質実剛健な意匠が男心をくすぐるミリタリーウオッチの歴史をひも解く本連載の2回目は、重要度がいっそう増し、さらなる発展を遂げた1940年代のミリタリーウオッチにスポットを当てる。
無駄のない質実さに惚れる【ミリタリーウオッチ】の歴史をひも解く|No.01
第1次世界大戦では航空機や戦車などの近代兵器が投入されたが、その性能や数量はまだ十分とは言えなかった。主戦力は歩兵であり、主戦場は塹壕戦だったのである。
しかしこれが第2次世界大戦期になると、近代兵器のさらなる発展と実用化によって、戦場が陸上だけでなく空や海にまで広がり、軍隊編成や戦術もいっそう複雑になった。
この変化に合わせて、軍用時計に求められる機能やデザインが明確化、細分化されていったのである。
そこでイギリス軍を例に、陸・海・空それぞれで採用されたミリタリーウオッチの特徴や違いを見ていきたい。
ARMY
イギリス陸軍。オメガ製
まず陸軍の軍用時計だが、この頃から仕様の統一化が図られたため、基本的にすべて同じ特徴を備える。デザインは60刻みのミニッツ、セコンドインデックスとアラビア数字のアワーインデックスを持った黒文字盤。そしてスモールセコンドタイプの防水仕様というものだ。
また陸軍用時計は各国で黒文字盤が採用されることが多かったのだが、その理由は周囲から目立たないためだったと言われる。さらに光を反射しないようにマット仕上げが施されたものが多いことも特徴だ。
また雨が降ることもあるため、基本的には防水仕様。風防がガラス製ではなく、割れても飛散しないプラスチック製に改められたのもこの頃だ。
NAVY
イギリス海軍。オメガ製
海軍でも基本的に3針時計が採用されたが、センターセコンドタイプが中心であった。これには理由があり、支給されたのが主に航空母艦の艦載機に登場するパイロットだったからだ。特に飛行中は秒単位での時刻を把握することが必須であり、そのため判読性の高いセンターセコンドが採用されたというわけである。また、海軍用にはクロノグラフなどバリエーションが多いことも特徴と言える。
1940年代にはまだ本格的なダイバーズウオッチが開発されておらず、海軍用の時計でも見た目には、陸軍用とそれほど違いがあったわけではない。ただ、文字盤の色については、暗いところでも判読しやすいように白が採用されたモデルも多い。
AIR FORCE
イギリス空軍。IWC製
そして空軍用時計。第2次大戦では特に航空機の働きが重要視されていたため空軍用時計には、精度の優れたムーヴメントが選び抜かれたほか、磁気帯びを防ぐ耐磁性能をもたせるなど、当時でも最先端の技術が盛り込まれた。空軍用時計に、時計史において欠かせない名品が多いのは、この理由からだ。
写真のモデルは空軍時計の傑作として知られるイギリス軍用時計のマーク11。IWCやジャガー・ルクルトといった名だたるメーカーが製造を担った。シンプルな3針モデルだが、2重構造によるケースと分厚い文字盤を持った耐磁仕様で、当時まだ一般的ではなかった秒針停止機構(ハック機構)も備えていた。
戦争の近代化により、軍内においても時間を管理する時計の必要性は格段に増していた1940年代。
この時代のミリタリーウオッチは、耐久性や視認性などスペック面が強化されてたことに加え、調達を円滑にするために開発や製造の手順も規格化するなど、運用体制も整えられていた。
そのため製造数も多く、現在も比較的手に入りやすいミリタリーウオッチである。
次回は、科学技術の進歩とともにさらに高機能化していく1950〜60年代のミリタリーウオッチについて解説する。
文◎堀内大輔(編集部)/写真◎笠井 修