GPSウオッチと電波時計の違いとは?
いまさら聞けない基本をわかりやすく解説!
忙しい現代のビジネスマンにとって朝の1分1秒というのは非常に貴重だ。“高級機械式時計を身に着けることは大人の嗜(たしな)み”とも言われるが、多忙なビジネスマンにとっては、朝に時計のリューズを巻く時間を設けることがはばかられるなんてことも珍しくないだろう。
そんなとき、正確な時刻情報を自動で受信し、身に着けるだけで良い腕時計というのはすこぶる便利。それを可能にするのが、時刻情報を乗せた電波を受信するGPSウオッチと電波時計だ。
かつては技術的な制約からカジュアルなものが多かったが、いまやスーツに合わせてビジネスシーンでも着けられる高級感漂うGPSウオッチと電波時計も珍しくなくなった。そこで、ビジネスシーンにも身に着けられる高級GPS&電波時計の魅力に迫ってみた。
GPSウオッチ&電波時計。注目ポイントは受信エリア
GPSウオッチと電波時計。どちらも電波を受信する機能をもつ時計だが、その違いを改めて問われると何が違うのか、ちゃんと理解していないという人は意外と多いのではないだろうか? そこで、いまさら聞けないGPSウオッチと電波時計の違いを整理しておきたい。
GPSウオッチとは、地球周回軌道上にあるGPS衛星から送信される電波を受信する機能をもつ時計であるのに対し、電波時計は地上にある標準電波送信所から送信される電波を受信する機能をもつ時計を指す。
精度についてはどちらも基本的に大きな違いはなく、簡単に言ってしまうと両者の違いは“どこから発信される電波を受信するか”、つまりは“受信エリアの違い”に集約されるわけだが、それぞれメリットとデメリットがあり、それが時計の個性や性格を特徴付けるポイントになっている。
まずは電波時計。電波時計の受信可能範囲は、1500~3000kmと言われており、一般的な電波時計では標準電波送信所が発信する電波が届く範囲内でしか機能しない。日本は二つの送信所があるが、アメリカやヨーロッパなど主要な地域をカバーする送信所が世界各地にある。
廉価なモデルでは日本の標準電波にしか対応しない場合が多いが、高級モデルでは世界の主要地域(基本的には日本の2局に北米とイギリス、ドイツ、中国を加えた世界6局)の標準電波に対応する多局受信仕様がスタンダードになっている。
1985年の世界初の電波クロックに続き、1990年に世界初の電波時計としてユンハンスが製造したメガ1。ドイツでの単局受信モデルで、デザインはMacなどで有名なデザイングループ、フロッグデザインが担当した。画像:ユンハンス
シチズンが発売した世界初の多局受信型アナログ電波時計。アンテナを中央に配した独創的デザインが目を引く。限定モデルであったため、いまやコレクターズアイテムとなっている。1993年。画像:シチズン時計
上の地図は、世界の主要地域に設けられた標準電波送信局。電波時計では各地に点在する標準電波送信所から発信される時刻情報を受信し、誤差がある場合は修正した正確な時刻を表示する。ゆえに各送信所が発信する電波が届く範囲内でしか機能しない。なお、標準電波送信局から発信される時刻情報は約10万年に誤差1秒という高精度な原子時計によって生成されている。
対するGPSウオッチだが、GPSとは全地球測位システム(=Global Positioning System)を指し、そもそも地球上における位置情報を取得するためのシステムだ。GPSでは、地球上のどの上空でも常に複数個が存在するように、つまりは死角を作らないようにGPS衛星が地球周回軌道上に配置されており、GPSウオッチではこの地球周回軌道上にある複数のGPS衛星から送信される電波を受信する。
死角がない、つまりは受信エリアの制限がないというのがGPSウオッチ最大の特徴だ。
GPS衛星には10万年に1秒の誤差しか生じない原子時計が搭載されおり、常に時刻情報(カレンダー情報)を発信している。また、GPS衛星は周回軌道上のどの位置にあるかが時刻によって決まっている。
つまり、GPS衛星からの電波を受信すれば、その衛星の位置がわかるのだ。GPSウオッチではこの仕組みを利用し、複数のGPS衛星から電波を受信。それぞれの衛星の位置と距離を算出して自分がいる位置を割り出し、現在地の正確な時間を自動で表示してくれるというわけである。
GPSでは送信と受信時刻の差によって受信機との距離を算出。複数の衛星からの距離を算出し、空間上の1点を決定する。位置情報の取得には最低4個のGPS衛星から電波を受信する必要がある。地球上を周回しているGPS衛星は約30個ある。
システムとしてはGPSウオッチのほうが高度だが、デメリットもある。それは標準電波の受信と比べてGPS衛星からの電波受信は多くの電力を必要とするうえ、位置情報の取得に非常に時間がかかってしまう(30秒から2分)ということだ。
GPSウオッチでは、この電力消費の大きさが開発のうえで問題となった。
というのも、GPS衛星からの電波受信には高感度な受信アンテナと大容量電池が必要とされたからだ。電波時計(腕時計タイプ)は1990年に実用化され、GPSウオッチも99年には早くも試作機が発表されたが、ごく初期のGPSウオッチは非常に巨大なもので、頻繁な電池交換や充電を必要とし、まだまだ実用的と呼べる代物ではなかった。
1999年1月に試作機が発表され、同年6月にプロトレックの上位機種として製品化されたカシオのGPSデジタルウオッチ。ディスプレイとほぼ同サイズのアンテナはケース左側に、12時側のラグ部分にリチウム電池をセット。66mmサイズ、29mm厚と巨大だった。画像:カシオ計算機
高級感が劇的にアップしたGPSウオッチ&電波時計
GPSウオッチが再び日の目を見るのは、2012年にセイコーが発表したGPSソーラーウオッチ、アストロンの7Xシリーズ登場以降になる。7Xシリーズの開発に携わった当時の担当者曰く、12年に登場したアストロンは当初からビジネスユースとしての腕時計が想定され、実用に耐えうるサイズ感の実現と頻繁な外部充電を必要としないことが絶対条件となった。これを機に国産時計メーカーではGPSウオッチ開発競争が激化。
数年ごとに消費電力が抑えられ、かつ小型化を実現したGPSウオッチが各社から登場するようになり、いまでは電波時計や一般的な腕時計と遜色ないサイズと機能を得るに至った。
世界初のクォーツウオッチ“アストロン”の名を受け継ぐセイコーの世界初のGPSソーラーウオッチ。地球上のあらゆる場所で位置情報を取得。簡単なボタン操作ひとつで現在地の正確な時刻情報を表示するまさに究極の精度と利便性を実現した。2012年発表。画像:セイコーウオッチ
一方で、アンテナの受信感度の向上はステンレススチールやチタンといった金属素材の採用を可能にし、低消費電力化は文字盤の質感向上をもたらし、劇的に高級感がアップ。いまではスーツに合わせ、ビジネスシーンで着けても遜色ない作りを実現するに至っている。
ビジネスシーンでも着けられるようになった電波時計とGPSウオッチ。一体どんなモデルがオススメなのか。次回は、編集部が厳選したビジネスシーンに効く電波時計、GPSウオッチを紹介する。
文◎佐藤杏輔(編集部)