LowBEAT magazine @kikuchiのいまどきの時計考

【第6回】ポストヴィンテージ時代の腕時計|かなり個性的だったクロノグラフウオッチの70年代デザイン

71年に公開された“栄光のル・マン”で主演のスティーブ・マックイーンが劇中で着けていた腕時計と同型のホイヤー社(現タグ・ホイヤー)の“モナコ”。実際にはブレスレットタイプではなく革ベルト仕様だった

 1970年代から90年代までの30年間に生産された時計をポストヴィンテージと定義し、当時のトレンドや傑作モデルを紹介している当連載。この時代に誕生したものとして、前回は自動巻き式のクロノグラフウオッチを取り上げた。6回目の今回は自動巻き式に限らず70年代のクロノグラフウオッチに採用されたデザイン的特徴について注目してみたいと思う。なぜかというと、この年代は特に個性的なデザインが多く、近年、クロノグラフのデザインとして再び注目されているからだ。

 実はこの時代のデザイン性については、二つ前の第4回で「ポストヴィンテージ時代の腕時計|宇宙時代の到来で流行した異形ケース!」と題し、丸型だけでなく様々な形のケースが70年代に登場したことについて取り上げた。そのなかで筆者は、当時世界中が“宇宙”に対して熱い眼差しを向けていたことがひとつの背景にあったと考えられるだろうと書いた。

 当然これはクロノグラフウオッチにもあてはまり実際に特徴的なケースも少なくない。しかしこと文字盤デザインについて言えば、それよりも1960〜70年代にヨーロッパや日本の経済成長を背景に全盛期を迎えていた当時のモータースポーツが大きく影響を与えていたのではないかと思う。そして、その一端は71年に公開された“栄光のル・マン”からも垣間見られる。

 皆さんもご存じのように、この映画では主演のスティーブ・マックイーンが劇中で着けていた腕時計にも注目が集まった。その時計は、当時開発されたばかりの自動巻きクロノグラフムーヴメントを搭載し、しかも世界初の角形防水ケースを採用した当時としては最先端をゆくホイヤー社の“モナコ”だったのである。当然、そこに最新のクロノグラフウオッチとモータースポーツを関連付けて、当時苦戦を強いられつつあった機械式腕時計の新たな魅力として再認識させる意図があったとしても何ら不思議はない。

 これが引き金になったかは正直わからないが、劇中にも登場するカラフルなレーシングカーのような、派手な色使いや個性的なデザインを取り入れ、レーシーさを強調したクロノグラフのデザインは、一気にこの時代のトレンドとなったことは確かだ。そして、少なくともそれを牽引したのはホイヤー社のオータヴィアだろう。

インダイアルのデザインを四角にしたブライトリングのクロノマチック(Cal.11)と目の周りが黒いパンダから名付けられた通称パンダ文字盤デザインのホイヤー・オータヴィア(Cal.12)

 さて、そんな当時のクロノグラフの個性的なデザインには大きく三つの特徴がある。ひとつは、文字盤とクロノグラフの積算計となるインダイアルに反転色などを用いることでコントラストを効かせ、計時表示を強調したデザインだ。

 色の組み合わせもブルーやオレンジといった鮮やかなものからモノトーンのベーシックなものまで幅広い。王道はなんといってもブラック&ホワイト。インダイアルがブラックで周りがホワイトの配色はその見た目から“パンダ文字盤”と言われ、特に人気のデザインである。

 二つ目は、そのインダイアルの形状だ。通常は計測針が円を描くように回ることから丸形というのが一般的なのだが、丸形のケースに対して正方形や台形などの一見不釣り合いとも思われる四角いものを採用し、インダイアルをデザイン要素として強調するスタイルが多く見られることだ。これは、ほかの年代ではほとんど見られず、この70年代特有の特徴と言えるだろう。

計測カウンターをスピードメーターやタコメーターに見立ててインストルメントパネル風に仕上げたデザイン。右がブライトリング、左がゾディアックだ

 そして三つ目はインダイアルをスピードメーターやタコメーターに見立ててレーシングカーのインストルメントパネル風に仕上げた、かなりストレートな表現もこの時代ならではのデザインである。

 このようにカラーリングといい、インダイアルの表現といい、70年代のクロノグラフウオッチのデザインはある意味では主張しすぎるぐらいに個性的なものが採用されていた。しかしながら、これが逆に現代にはないデザインとして新鮮に感じられることも確かだ。このことがファッションアイテムとしての新たな魅力を生み出し、近年再び注目をされるようになったというわけである。

菊地 吉正 - KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。

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