Cal.11を搭載したホイヤーのオータヴィア。左リューズなのが特徴だ(ロービート17号より)
1960年代までに作られたアンティークウオッチの次に注目される存在という意味から、1970年代から90年代までの30年間に生産された時計をポストヴィンテージと定義し、当時のトレンドや傑作モデルを紹介している当連載。
今回は、筆者が編集長を務めるアンティークウオッチの専門誌“Low BEAT(ロービート)”最新号の第17号(4月22日発売)の特集でも取り上げた“自動巻きクロノグラフ”について紹介したいと思う。
腕時計は本来時刻を知るための道具である。そこに計測という新たな機能を追加することで腕時計の実用性を飛躍的に高めたのがクロノグラフ機構だ。そのクロノグラフ機構を装備したムーヴメントに初めて自動巻き式が登場したのは実は1969年のことで、それ以前のものはすべて手巻き式だったのである。
上からセイコーCal.6139、クロノマチックことCal.11、そしてエル・プリメロことCal.3019PHC(ロービート17号より
ご存じのとおり、腕時計の自動巻きムーヴメントは、20年代にすでに誕生しており、なかでも最も有名なのが31年(異説あり)に、ロレックスが世界に先駆けて発表した全回転式の自動巻き機構“パーペチュアル”である。つまり3針モデルについてはかなり早い時期から自動巻き化が進んでいた。
しかしながら、自動巻きクロノグラフムーヴメントの登場はそれから遅れること実に40年以上、開発にかなりの時間を要したことがわかる。
その理由については本誌の特集で詳しく紹介しているためそちらを読んでもらいたいが、端的に言うと自動巻き用のローターとクロノグラフ機構のモジュールの両方を腕時計という小さなスペース内に収めることに困難を極めたということである。
ゼニスのエル・プリメロを搭載したモバード。デイトロンという名称で展開した(ロービート17号より)
そして69年、その困難を乗り越えて三つの自動巻きクロノグラフムーヴメントが誕生する。ホイヤー・レオニダス(現タグ・ホイヤー)、ブライトリング、ビューレン・ハミルトン、そしてデュボア・デプラの4社連合で開発した“クロノマチック”ことキャリバー11。
3万6000振動ものハイビート化したゼニスの“エル・プリメロ”ことキャリバー3019PHC。そして諏訪精巧舎(現セイコーエプソン)が開発したキャリバー6139だ。
ゼニスのエル・プリメロが発表されたのは69年1月10日。クロノマチックは3月3日だった。一方のセイコーは、キャリバー6139を載せた“セイコー 5 スポーツ スピードタイマー”を製品化して同年5月に販売している。
Cal.6139を搭載した“セイコー 5 スポーツ スピードタイマー”(ロービート17号より)
つまり、ゼニスのエル・プリメロは、世界に先駆けて発表された自動巻きクロノグラフムーヴメントなのだが、製品化されたのは秋以降だったため、世界初の自動巻きクロノグラフモデルは、製品化していたという点で事実上はセイコーだったとも言えるのである。
さて、次回は70年代の自動巻きクロノグラフウオッチのデザイン的なトレンドについてフォーカスしてみたいと思う。
菊地 吉正 - KIKUCHI Yoshimasa