アンティークウオッチの基本的なことを全5回にわたってお届けする連載企画。第2回では購入指南として、最もベーシックな3針編をお届けした。第3回のテーマでは、計器然とした表情が男ごころをくすぐる、“クロノグラフ”について紹介する。
》手巻きならではの緻密なメカニズム
1940〜50年代はクロノグラフ技術の爛熟期で、バルジューやヴィーナスなどのエボーシュが提供する汎用ムーヴメントが高いクオリティをキープする一方で、自社で製造を行うブランドも多かった。それだけ各ブランドの製造体制や技術力に余裕があったということで、実際にこの時期のクロノグラフムーヴメントを見てみると、耐久性が高く美しく仕上げられたパーツを使い、コラムホイールなどの伝統的で手間のかかる設計が成された質の高いものが多い。
現在ではなかなか再現できないレベルのものも多く、この時期の個体のみを集めているコレクターも存在するほどだ。
時計師の工賃が飛躍的に上がってしまった現在では、このようなクオリティのクロノグラフを再現しようとすると、途轍もないコストがかかってしまう。それにより、アンティークのクロノグラフは市場でも徐々に見つけにくくなっている。
しかし現行製品のクロノグラフに比べると、デイトナなどのメジャーブランドを除いてまだまだリーズナブルな水準にある。今後、市場の流通量が増えることは考えにくく、将来的には価格も大きく高騰していくだろう。
》当時のクロノグラフムーヴメントで “良い”とされるポイントは?
・堅牢設計で耐久性に優れる
ブリッジやクラッチ、各歯車などが複雑に絡み合うクロノグラフでは、各パーツの耐久性が問 われる。パーツが摩耗し合わないような配列のデザイン、面取りなどの仕上げ精度にも各ブランドの技術力が問われる。
・伝達方式はコラムホイール式
また、コラムホイールはクラッチやレバーにかかる負荷を分散させ、しかもボタンを押したときのクリック感が良い。もう一方のカム式は製造コストは安いが、カム作動時に機械に大きな力が加わるので耐久性にやや難がある。
》編集部のオススメ ― クロノグラフ編
レマニア。SS(35mm径)。手巻き(Cal.CH27 CHRO C12)。1940年代製。参考相場35~50万円/参考商品
レマニアはオメガやティソにムーヴメントを供給していたエボーシュだが、1940〜80年代には自社製時計も手がけており、クロノグラフファンには評価が高い。3カウンターの渋いルックスだが、機械の質を考えるとこの価格はまだまだ格安と言えるだろう。
レマニア社で傑作ムーヴメントを多く手がけたアルバート・ピゲが開発し、後にオメガのスピードマスターのベースキャリバーにもなったことでも知られる。ブレゲヒゲ、チラネジ付きテンプで、全体のレイアウトが非常に美しいことがわかる。パーツも耐久性の高いものが吟味されて使われている。
オメガ スピードマスター4th。Ref.ST145.012。SS(42mm径)。手巻き(Cal. 321)。1967年製/参考商品
Cal.321が採用されたのはスピードマスターの初代から4thモデルまで。特に後期で完成度の高い4thは市場でも人気が高く、最近はやや見つけにくくなっている。
キャプト クロノグラフ。SS(34mm径)。手巻き。1940年代製/参考商品
バルジュー社は、当時、有名無名の様々なメーカーにムーヴメント供給を行っていた。この個体はほぼ無名ブランドのクロノグラフモデルだが、メジャーブランドに比べて値ごろな価格で手に入るためビギナーにおすすめと言えるだろう。
ブライトリング ナビタイマー。Ref.806。GF×SS(40mm径)。手巻き。1965年製。参考相場50万円~/参考商品
ヴィーナス178を搭載したナビタイマーの中期モデルは価格も比較的こなれている。現行と比べると書体に味わいがあり、ドーム形のプラ風防もアンティーク感をアップ。40mmと程良いサイズ感も魅力的だ。
次回の第3回目では、“ダイバーズ”編をお届け。ダイバーズ誕生の歴史なども深堀りしていくので、気になる方はチェックしてみてほしい。
構成◎松本由紀(編集部)/文◎巽英俊/写真◎笠井修