女性編集者がレディースウオッチの新作を実際に見て、感想を交えて紹介する本企画。今回はVACHERON CONSTANTIN(ヴァシュロン・コンスタンタン)から、2020年2月に発表されたばかりの新コレクション“エジェリー”を紹介する。
【モデル紹介】
1755年から時計製造を行い、世界最古の時計ブランドとしても知られているヴァシュロン・コンスタンタン。
その265年にもわたる長い時計製作のなかで、エナメル装飾や彫金を施した工芸品のような美しさをもつ“メティエ・ダールコレクション”や、2015年に製作された世界一複雑な時計とされる懐中時計Ref.57260、さらにシンプルな王道デザインで多くのファンを持つパトリモニーなど、様々な時計を世に生み出してきた。
そんなヴァシュロンが2020年2月に発表したのが、新しいレディースコレクション“エジェリー”である。メンズモデルのない完全なレディースコレクションとしてはかなり久々のリリースということで、非常に興味をもっていた筆者。早速アポイントを取ったところ、実機を手にとって見ることができたので、その魅力を説明していきたい。
コレクションのラインナップは、大きく分けて4種類。デイト表示搭載のクォーツモデルと同じくデイト表示搭載の自動巻きモデル、そしてムーンフェイズを採用したホワイト文字盤モデルと、同じくムーンフェイズを搭載し文字盤にダイヤモンドを敷き詰めた“ダイヤモンドパヴェ”である。
このうちクォーツモデル以外にはブレスとレザーベルトの各2パターンをラインナップ。ブレスタイプにはダイヤモンドパヴェのみホワイトゴールド、それ以外はステンレススチールの素材が用いられている。またレザーベルトにはピンクゴールドケースが採用されている。
一方これらすべてのモデルに共通して採用されたのが、1時と2時位置の間に配されたオフセンターのインダイアルだ。オフセンターはこれまで様々なモデルに代々採用されてきた仕様で、本作における特徴的なデザインとなっている。
一見大胆な配置のようにも思えるが、同じ1時と2時の間に配されたリューズや、対角線上の8時位置にブランドロゴを配置したことにより、バランスのとれた美しいデザインに仕上げられている。
随所に施された高度なデザイン技術に注目
世界最古の時計ブランドのこだわりのデザインが盛り込まれているエジェリー。ここからはそんな本作の見どころを三つ、紹介していこう。
1.オートクチュールとオルロジェリー(高級時計)の融合
先ほど本モデルの特徴として“オフセンターが採用されていること”を挙げたが、本作のもうひとつの特徴が“オートクチュールとオルロジェリーの融合”というコンセプトだ。
オートクチュールとは、デザイナーが顧客のためにデザインした衣服、またはそうしたショップ自体を意味するフランス語。主にパリの高級注文服業界で作られた服のことを指すことが多く、その言葉の意味からもパリの華やかな雰囲気が伝わってくる。
そんなオートクチュールにインスピレーションを得たエジェリーには、文字盤の中央と文字盤外周部に、スカートによく用いられるプリーツ加工を模したデザインを採用。これは同ブランドのギョーシェ彫りの工房にて、伝統的な“タペスリー技法”により作られたものだ。
このタペストリー技法とは、旋盤を用いて文字盤に模様を施すという、ギョーシェ彫りと同様の方法を採る加工技術。ヴァシュロンでは1920年代から使用されてきた機械を駆使し、ひとつずつ職人が手間をかけて仕上げている。
こうして生み出されたタペストリー装飾を引き立てているのが、文字盤自体に施されているシルクのような光沢感をもつ“シルバーオパーリン仕上げ”だ。粒子を吹き付けることにより生み出される加工方法で、光の当たり具合で表情が変わる色味が、プリーツのような加工と相まって、いまにも揺れ動きそうなほど美しかった。
ほかにもインデックスのフォントに刺繍をイメージしたイタリック体が採用されていたり、刺繍の針をイメージした特別に長い秒針を採用するなど、オートクチュールに着想を得たデザインが盛り込まれている。プリーツや刺繍針といった、どれも女心くすぐられる可愛らしいディテールだ。
2.雲の意匠が可愛いムーンフェイズ
自動巻きモデルで1時と2時位置の間に配置されたムーンフェイズも、本作の見どころ。ムーンフェイズとは月の満ち欠けを文字盤で表示する、女性にも人気の高い古典的な機構である。
特に本モデルで特徴的なのが、雲の間から月が顔を覗かせるようなインダイアルのデザインだ。雲をかたどったマザーオブパールのプレートは、ムーンフェイズの幻想的な雰囲気を盛り立てている。
いまにも動き出しそうな、もこもことしたマザーオブパールの雲。どうやって作られているのか気になって聞いてみたところ、あらかじめ雲の型にプレートを加工し、その上にカッティングしたマザーオブパールを乗せて成型しているという。
マザーオブパールのカッティングに少しでもズレが生じれば、プレートとマザーオブパールの間に隙間ができ、見た目の美しさが損なわれてしまうこの装飾。繊細な作り込みからも、ヴァシュロンの高度な加工技術を感じ取ることができた。
3.神秘的なムーンストーン
リューズ部分には“癒しの石”とも言われるパワーストーン“ムーンストーン”がセッティングされている。透明感のある乳白色で、神秘的な雰囲気漂う、見た目も美しい貴石だ。
ぷっくりと丸みがつけられたこのムーンストーン。これは同ブランドに在籍する職人により、貴石の加工からセッティングまで丁寧に仕上げられたものだ。
エジェリーのダイヤモンドパヴェのモデルも、これらの職人により作られており、同ブランドがいかに宝飾にも力を入れているのかがわかる。
※“ダイヤモンドパヴェ”と“ジュエリー”モデル2点については、ダイヤモンドを配置
【装着感は?】
ケースサイドを逆台形に加工することで、風防よりも裏ブタの表面積が小さくなっている。そのため、腕に当たるのは実際のケース径(30mm)よりも小さい面積になり、着けてみると実際のケース径よりも小振りに感じた。
さらにラグが手首の形に沿って丸くカーブをしているため、手首にフィット。ベルトもしなやかに手首になじみ、装着感も良好だ。
【推しのポイント】
ピンレバーより簡単 ワンタッチで付け替えが楽しめるベルト
レザーベルトタイプのモデルを購入した場合、ダイヤモンドパヴェモデルはレザーとサテン素材の計2本のベルト、ほかPGモデルでは色が異なる計3本のレザーベルトが付属するエジェリー(※ブレスタイプのモデルは除く)。
ベルトの付け換えというと、専用の工具を使って取り外すことで、交換するのが一般的だ。専門の工具がなければできないため、工具を自分で購入するか、もしくは時計店で付け換えてもらわないと交換ができず、少し手間がかかる。
そんななか最近では、工具がなくとも付け換えができるよう、バネ棒にピンレバーが取り付けられているものも多く販売されている。しかしこれは指先に力を込めなければならず、中々のコツが要るのだ(筆者はあまり得意ではない)。
その点本モデルで採用されているのは、力を入れなくても、ベルトの裏面に配されたワンタッチ式のレバーで付け換えることができる“インターチェンジャブル”式のベルト。指の腹で押すだけで簡単に取り外しができ、力を入れなくても付け換えることができる優れもの。
その日の装いや気分によって、洋服のようにコーディネートできるので、外出するのがもっと楽しくなりそうだ。
世界最高レベルの時計製造を行うヴァシュロンが手がけたレディースコレクション、エジェリー。高度な加工技術を可愛らしいデザインで楽しめる、機能的にも優れてモデルなので、本格的な時計が欲しい女性にぜひ、オススメしたい。
文◎佐波優紀(編集部)
【問い合わせ先】
ヴァシュロン・コンスタンタン
TEL:0120-63-1755
ヴァシュロン・コンスタンタン 公式サイト
https://www.vacheron-constantin.com/jp/home