近年、経年変化によって得られる枯れた雰囲気や味わいなど、多くの魅力を備えるアンティークウオッチの需要が高まっている。だが、気になってはいるものの、アンティークがどういったものかわからず、購入などを躊躇している人もいるのではないだろうか。
そこで、アンティークウオッチの基礎から、ジャンル毎のおすすめアンティークウオッチは何か、全5回に分けて情報をお届け。ビギナーだけに関わらず、アンティーク上級者でも楽しめる内容となっているので、少しでも購入の参考にしてみてほしい。
》現行品では得難い、独特の意匠と高品質な仕上がり
腕のいい時計師が多く存在し、時計製造が技術的なピークを迎えたのは1940~50年代だと言われており、1940年代ともなれば時計の価値はいまよりはるかに高かった時代だ。
マスプロ化される以前でまだ製造本数は少なく、職人が手作業で丁寧に組み上げた質の高い製品が多かった。
しかも当時の時計に組み込まれているムーヴメントは、テンプがゆっくり振動する“ロービート”と呼ばれるタイプが主流であった。ロービートのムーヴメントはトルクが弱いため、精度を出すために様々な工夫が必要となるが、調整次第で動作は非常に安定する。
1番のメリットは負荷が小さいため歯車の磨耗が少なく、大切に使えば長もちするという点である。もとよりパーツは耐久性を重視しており、質の高い素材をきちんと手作業で仕上げているため消耗が少ない。
半世紀以上前の時計が現在でも使えるのは、腕のいい職人が質の高いパーツで組み上げたロービートムーヴメントだからゆえだ。さらには外装も高級品にふさわしく手のかかる装飾を施していて、 現行品では得難い仕上がりのものも多い。
時計の資産価値がいまよりはるかに高かった時代の産物ゆえ、ムーヴメントは一生使っても壊れないほどの耐久性が追求された。工作機械も発展していなかったため、多くの製造工程が手作業によるもので、その加工の丁寧さが長寿化に繋がったとも言える。また、機械ならではの精緻なメカニズムも男ごころをくすぐる。
価格改定を繰り返し、いまや高嶺の花となりつつあるスイスの現行時計の相場を考えると、しっかりした作りのアンティーク時計の相場はかなり割安だと言える。何より時代を経てきたことで生まれた独特の味わいがモノとしての凄みを感じさせるし、よく見れば1点ごとに異なった顔つきをしているのも楽しい。
自分好みの1本さえ見つかれば、 一生安心して飽きずに使えるパートナーになってくれるはずである。
経年による文字盤や外装の変化もアンティークウオッチの大きな魅力だ。特に文字盤は日焼けや褪色によって独特の味わいを醸し出し、その変化の仕方によって自分だけの1点モノとしての魅力が生まれてくる。この変化の具合によって価格が大きく変わることもあるほどだ。
また、ここでは“耐久性”“デザイン” “人気”“手頃さ”の四つの要素をもとにアンティークウオッチの代表モデルを編集部が独自にマッピング。各モデルの位置づけを確認すると同時に、自身が重視するポイントを明確にしておくと、選択する際にスムーズだ。
はじめてアンティークを購入するユーザーは、“耐久性”と“手頃さ”の高いチャート右下のエリアのモデルを狙うと失敗は少ないだろう。
》現行とアンティークがもつ魅力と弱点
・アンティークの魅力
1.当時は時計自体が高級品のため、長く使えるよう設計されており、かつ外装を含め手の込んだ作りが多い
2.時代特有のデザインや経年によるオンリーワンの味わいをもつ
3.ケースが小振りで日本人の腕になじみやすいサイズ感
熟練の時計師が手作業で組み上げた時計は、やはり時代を超越した魅力がある。現在では高級時計と呼ばれるレベルの仕事が数十万円で手に入ることを考えれば、コストパフォーマンスは高いと認めざるを得ない。時計としての風格に満ちていながら、サイズも現行製品と比べると小振りで、日本人の腕に合わせても違和感がない点も魅力だ。
・アンティークの弱点
1.防水性が保証されない
2.メーカー修理の受け付けが終了しているケースやメーカー自体がなくなっているケースがある
たとえダイバーズであっても、アンティークウオッチに防水性はほとんど期待できないと考えたほうがいい。耐震性や防塵性も低く、常にデリケートな扱いが求められる。またメーカーでの正規修理はほとんど期待できないので、部品をストックしている信頼できる修理店とのコネクションが必要となる。
・現行の魅力
1.スペックが総じて優秀
2.多くの個体が調整なしでも精度が出やすい
3.時代に合ったトレンド(サイズ感、カラー、機構)が取り入れられていることが多い
4.修理体制が整っており購入後も安心して使える
近年の時計製造技術の向上によって、機械式時計のスペックはかなりアップしており、機能性も防水性、耐磁性、堅牢性を含め時代に即したものになっている。またサイズ感もボリュームアップされており、イマドキのトレンドにマッチしたデザインが取り入れられているため、様々なファッションに合わせやすい利点もある。正規修理の体制が整っている点 も魅力と言える。
・現行の弱点
1.多くがハイビート化によって調整なしでも精度が出やすいが、部品は摩耗しやすい
2.近年ブランド全般で高額化が顕著
スペックを追求する一方で、ハイビート化されたムーヴメントはどうしても消耗が激しい。また超複雑機構を搭載した一部の高級時計では、そのギミックゆえに常に故障の不安がつきまとう。ボリュームのあるデザインも、細身の人には似合わないという意見が根強く日本のユーザーにはなかなか難しい。
今回はアンティークの基礎についてお届けしたが、いかがだっただろうか。次回からはいったいどんな魅力的な時計があったのか、四つのジャンルに分けたおすすめのアンティークウオッチを紹介していくので、気になる方はぜひチェックしてみてほしい。
構成◎松本 由紀(編集部)/文◎巽 英俊/写真◎笠井 修