「高級時計ブランドといえば?」
こう質問した場合、おそらく最も多く名前が挙がるのは、ロレックスだろう。
ほとんどの人が一度は聞いたことがあるであろう圧倒的なネームバリューもさることながら、時計としての完成度も高く、実際、最強の実用時計であることに異論はないだろう。
ただ、一方で時計業界において、歴史や品格、工芸的な価値といった面を含めて最高峰として認知されているは、1839年に創業したパテック フィリップだ。
古くはイギリスのヴィクトリア女王にはじまり、現在も世界中のVIPを虜にしているパテック フィリップは、多くの時計好きにとって一度は手にしたい時計でもある。
そんなパテック フィリップの価値のひとつが、創業以来のすべてのタイムピースについてのアフターサービス、修理・修復に対応している点だ。それゆえ、同社の時計は世代を超えて受け継いでいけるものとして、アンティークモデルも非常に高い人気を誇る。
加えて、時代の流行に左右されない不変的な美しさを備えたデザインであることもアンティークパテックが高く評価されているポイントだ。
そこで今回は、思わずため息が出るような美しさを備えたアンティークパテックの名作をご紹介したい。
Masterpiece 01
カラトラバ
パテック フィリップを象徴するモデルが1932年に誕生した“カラトラバ”と呼ばれるドレスウオッチである。
ラグからケースにかけての流れるような流線形のシェイプやフラットなベゼルなどがその特徴で、その後のラウンドウオッチデザインの指針となったモデルとされる。この個体は通常のカラトラバよりもケースがひと回り大きい(もっとも現在の基準からするとかなり小振りだが)、通称“ビッグカラトラバ”と呼ばれるもの。
またこの個体で特筆すべきはそのコンディションである。保管状態が良かったためか、60年以上も前の個体でありながら文字盤、ケースともに新品さながらの状態をキープしている。
■Ref.2509。K18PG(34mm径)。手巻き(Cal.12-400)。1950年代製。参考価格400万円
Masterpiece 02
2レジスター クロノグラフ
当時のパテック フィリップでは珍しいベビー(小振りな)ケースのクロノグラフモデルで、緻密なタキメータースケールが記された2カウンター仕様の文字盤デザインには非常に品がある。
搭載しているCal.13は、ベースのバルジュー社製ムーヴメントを同社が徹底的に改良したもので、性能はもとより細部にまで美しい仕上げが施されている。最高級ブランドとしての矜持が感じられるポイントと言えるだろう。
またこの個体のケースはノンポリッシュ、つまり一度も磨かれたことがない状態で、オリジナルのフォルムをキープした極上品だ。
■Ref.1463。K18YG(35mm径)。手巻き(Cal.13)。1940年代製。参考価格2400万円
高級機仕様に改良されたCal.13。美しい美観に加え、複雑なメカニズムが堪能できる点も機械式クロノグラフの魅力と言えよう
Masterpiece 03
トロピカル
艶やかな質感と淡い色合いが魅力となったエナメル文字盤を備えた自動巻きモデル。“トロピカル”の通称で知られる、アンティークパテックの代名詞的なモデルのひとつだ。
美しい文字盤もさることながら、ふくよかでエッジの効いたケースフォルムも本作の魅力となっているが、しかし、当時のフォルムを維持したままの個体は年々少なくなっている。そのため、写真のようにコンディションの良い個体はいっそう高額になる。また右の個体は南米ベネズエラ、カラカスで1925年に創業した高級時計宝飾店“セルピコ”との希少なダブルネーム仕様である。
■Ref.2526。(左)K18PG(36mm径)参考価格950万円 (右)K18YG(36mm径)参考価格680万円。ともに自動巻き(Cal.12-600AT)。1950年代製
Masterpiece 04
ジルベール アルベール
最後はアンティークパテックでも異色の1本。宝飾デザイン界の巨匠、ジルベール アルベールがパテック フィリップ在籍時にデザインを手がけたモデルとして知られるRef.3424だ。
左右非対称のケースデザインや、中心から放射状に伸びた12本のラインが入った文字盤など、その独特な意匠はアンティークパテックはもとより、同時代の時計のなかでもかなり異色。コレクターズアイテムとなっている。
■Ref.3424。K18YG(24×27mmサイズ)。手巻き(Cal.8-85)。1950年代製。参考価格950万円
※アンティークは、コンディションや細かな仕様違いによっても相場が異なります。表示している価格はあくまで目安です。
文◎堀内大輔(編集部)/写真◎笠井 修
撮影協力:シェルマン銀座店