当時は丸形ケースよりも見た目に個性的な異形ケースが流行。特にアポロ宇宙船が地球に帰還するときの司令船のような形にも見える卵形ケースが大流行した(ロービート14号「70sデザインを考察する」より)
新たに見出されたのが、装身具としてのデザイン性だった。
2020年1月25日に書いた「【第3回】ポストヴィンテージ時代の腕時計」では、1970年代の腕時計の特徴として“カラー文字盤と多面カットガラス”を取り上げた。そして今回はそれらと並んで当時のトレンドを象徴するもののひとつだった“異形ケース”について紹介する。
かつて機械式時計の黄金期と言われていた1960年代までの男性向け腕時計は、そのほとんどがケースは丸形であった。もちろん角形もあるにはあったが、その種類は極めて少なく圧倒的に丸形だったと言える。それが70年頃を境にして丸形でも角形でもない個性的かつ斬新な異形ケースが各社から登場するようになったのである。
その頃のスイス時計産業といえば、高精度で生産性の高いクォーツ時計が台頭してきたことに加えて、もともとコストが肥大化傾向にあったところへスイスフランの高騰がさらなるに追い討ちをかけていた。
しかし、それを価格に転嫁できる限界をもはや超えていたためにコスト削減を強いられ、最高級を誇った機械式ムーヴメントも各社ダウングレードせざるを得なくなっていたのである。当然、60年代の黄金期に生産されたものと同等の価値を望むべくもなかった。その突破口として新たに見出されたのが、装身具としてのデザイン性だったと言われている。
オメガ・フライトマスター。火山の噴火口にも見えることから愛好家の間ではボルケーノとも呼ばれる。Ref.145.036。SS(42mmサイズ)。手巻き(Cal.911)。1970年代製(ロービート14号「70sデザインを考察する」より)
こうして70年代には、各ブランドから様々な斬新かつストレンジなデザインが数多く生み出されていった。その代表的なものが、当時、世界中が熱い眼差しを向けていた“宇宙”というキーワードだったのだ。
当時の時計にかつてのSF映画を感じさせる流線形や独創的なフォルムのケースが多いのはこのためなのである。そしてこの時代のデザインワークは、今日、スペースエイジとも言われ、70年代のモデルをコレクションする最大の楽しみとして注目されるようになったというわけだ。
そんな異形ケースのなかでも目立って多かったのが、上に掲載したオメガのフライトマスターのように楕円を立体化したような、いわゆる卵形ケースだった。そして驚くのは、このような斬新なケースフォルムを多くのブランドが実現できているという点だ。まさしく外装の加工技術の高まりが時計の新たな時代のトレンドを加速させたことは言うまでもない。
1970年代の時計には個性的なケースが採用されたものが多い。目立って多いのは卵形ケース。次いで四角い座布団のようなクッションケースだった(ロービート14号「70sデザインを考察する」より)