1990年代後半から右肩上がりで伸びていた時計市場だったが、その状況を一変させたのがあの“リーマン・ショック”だった。第3回はそのリーマン・ショックが時計市場に与えた影響はどういうものだったのかを紹介する。
さて、僕は世代的にバブル経験組のため当然バブル崩壊も経験している。しかし、リーマン・ショックは、バブル崩壊とは明らかに違っていた。それは日本経済の冷え込む速さである。
バブル崩壊はあくまでも日本経済に限った出来事。対してリーマン・ショックは世界的なものだ。そのためバブル崩壊時は徐々に冷え込んでいったのに対して、リーマン・ショックは100年に1度の未曾有の経済危機と言われるだけあって、その速さはあっという間だったように思う。
日経平均株価も26年ぶりに一時7000円を割り、先行きの不透明感はさらに強まり、買い控えなど、個人消費にも大きく影を落とした。いまでも覚えているが、12月といえば1番の繁忙期にもかかわらず「問い合わせの電話のベルが一時期パタっと鳴らなくなり、真剣に今後どうなってしまうんだろうと思った」と人気の並行輸入店スタッフがその年の12月の状況をこう振り返っていた。
■スイス時計輸入額ベスト10
リーマン・ショックで世界経済は大不況に陥った。とりわけその中心にあるアメリカ経済を立て直すために取られたのが“ドル安政策”である。当然のごとく円高が加速。それによって日本企業の業績が次第に悪化、赤字になる企業が続出し、リストラや派遣切りが行われて問題になったことはみなさんも記憶に新しいのではないか。
そして、これは日本の時計市場にも影響を与えた。 上に掲載した“スイス時計輸入額ベスト10”を見ると世界第3位だった日本は、10年には7位まで順位を落としている。
2008年に実勢価格が130万円以上だったデイトナが、わずか2年余りで90万円台に
その一方で、並行輸入市場ではこの円高によってある変化が起きていた。それは北京オリンピックで高騰のピークを迎えていたロレックスの市場価格がガクっと下がったのである。それを受けて09年1月発売のパワーウオッチ44号では、表紙に「ロレックスを買うなら今だ!」という大見出しとともに特集を組んでいる。
この円高はさらに進み、10年7月刊行の53号では「デイトナがついに90万円台に突入」(写真参照)という特集を組んだ。ただしこれはデイトナに限ったことで、ロレックスのほかのスポーツモデルは、際立つほど安くなっているわけではなかったのである。この理由について為替やヨーロッパ経済の低迷など様々な憶測が飛び交っていたが、どれも判然としていない。
第4回は、スイスの高級腕時計産業に激震が走った「業界再編を促したETA2010年問題」をお届けする(12月30日11時50分を予定)。
■2001年からの高級時計市場を振り返る【第1回】いくらで買えるのか 原点はここにあり!
■2001年からの高級時計市場を振り返る【第2回】世界的な時計ブームで右肩上がりに急成長