レビュー記事 @kikuchiのいまどきの時計考

本物志向にこそおすすめしたい“一生モノの角形時計”その最新作とは?

角形ムーヴメントを搭載する
待望の角形時計

 モリッツ・グロスマンというドイツの時計ブランドをご存じだろうか。A.ランゲ&ゾーネやグラスヒュッテ・オリジナルなども本拠を構え、いまやドイツ高級時計の聖地とも呼ばれるグラスヒュッテの地に2008年に創業した。そして2015年に日本へ初上陸を果たし年々その存在感を高めている知る人ぞ知る高級時計メーカーである。

 歴史的には新興メーカーに類するが、機械式腕時計の心臓部であるムーヴメント(中の機械を指す)の約90%を自社で製造するなど、その技術力と仕上げの美しさは、時計愛好家をも魅了するほど評価は高い。

 また、グロスマンが他社と決定的に違う点がひとつある。それは針までも自社で製造しているところだ。しかもすべて手作りで製作時間は針1本につき約3時間。つまり1本の時計に必要な、時針、分針、秒針の計3本を仕上げるのに、まる1日かかる計算になる。実際に針を見るとわかるが、美しくしなやかなうえに太さも均一でないため、機械では決してできる代物ではないことが素人目にもわかるぐらいだ。

18金ローズゴールド、またはホワイトゴールドのケースに3種類の文字盤を展開。計5型がラインナップする。右はグラン・フー エナメル文字盤の限定モデル。左はシルバー無垢黒文字盤仕様。(右)Ref.MG-001950。RG(46.6×29.5mmサイズ)。世界限定25本。453万6000円。(左)Ref.MG-001910。WG(46.6×29.5mmサイズ)。378万円。ともに日常生活防水。手巻き(Cal.102.3)。発売予定は8月とのこと

 そんなモリッツ・グロスマンが2019年の顔として発表したのが同社初の角形 モデル“コーナーストーン”である。実はこのコーナーストーン、日本市場からの提案によって実現したものだという。

 筆者は今回、いち早く実機を見させていただく機会を得た。そのためここに掲載した写真はすべて実機を撮影したものであり、筆者も実際に着けさせていただいている。その感想も含めて紹介させていただこうと思う。

すべて手作りで仕上げられたブラウンバイオレットの時分針は、ブラック文字盤のみスチールのブラックポリッシュ仕様となる

 さて、そもそも角形の腕時計は丸形に比べるとその数は圧倒的に少ない。しかも、機械式でなおかつ中身のムーヴメントも角形というモデルは、歴史のある高級ブランドを見渡しても極端に少ない。それが新興ブランドとなるとなおさらである。

 その理由は単純で、たとえ角形ムーヴメントを新たに開発できたとしても丸形のムーヴメントに比べて汎用性がないため、コスト面でかなり割高になってしまうからである。

 作りたくても現実的には難しいというのが現状なのである。そのため時計自体は角形でも中身のムーヴメントは丸形という場合が実は多い。

 モリッツ・グロスマンは今回、コーナーストーンのために新たに角形の手巻きムーヴメント、Cal.102.3を開発してしまったのである。開発をスタートさせたのは2016年後半というから実に2年以上の期間を経て完成させたことになる。

3分の2プレートに4本のリブ模様。角穴車の3段バースト仕上げなど、形状が変わっても仕上げの美しさは変わらない

 そして最大の特徴はこのムーヴメントの半分弱を占める大きな香箱(ゼンマイを収納している円形の箱)。これによって60時間ものパワーリザーブを実現し、しっかりとユーザビリティーが高められた。

 また、時分針をセンターに置くため、4番車(歯車)を中心よりも外側に配置したぶん秒カナを介したインダイレクト方式によって、スモールセコンドを6時の正位置に軌道修正した。それによって実現した均整のとれた美しい文字盤レイアウトも大きな魅力と言えるだろう。

 実際にエナメル文字盤のローズゴールドケースを今回着けさせてもらった(トップの写真)。雰囲気はもちろんのこと、小さすぎず、それでいて適度に存在感もあってサイズ面のバランスもなかなか良い。角形時計はファッション的にも変化が付き、丸形の時計に加えて1本持っているとかなり重宝する。そういった意味でも一考の価値ありである。

取材・文◎菊地吉正/写真◎笠井 修/取材協力◎モリッツ・グロスマン ブティック TEL.03-5615-8185

菊地 吉正 - KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。

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