スイス時計とはまたひと味違った魅力があるドイツ時計。その独自性を際立てている要素はいくつか挙げられるが、そのなかでもわかりやすいのが“洗練されたデザイン”であろう。
この洗練されたデザインの根底にあるのが、20世紀初頭にドイツから始まった、機能に則した形態が最も美しいとするデザイン思想だ。中心となったのは1919年にドイツ、ワイマールに創設された建築と美術に関する国立総合芸術学校。そして、この学校こそ、今日ドイツプロダクトを語る際には必ずといっていいほど耳にする“バウハウス”なのである。
実は2019年は、このバウハウス学校の創設から100周年という節目の年に当たる。これを記念して日本でも8月より新潟市美術館を皮切りに『きたれ、バウハウス』と題した巡回展が開催されるなど、密かな盛り上がりを見せている。
ハウハウス100ジャパンプロジェクト http://www.bauhaus.ac/bauhaus100/
そこで改めてバウハウスデザインの影響を色濃く残すドイツ腕時計をピックアップ。それぞれの魅力を再考していく。
》編集部オススメモデル 01
マックス・ビル バイ ユンハンス
ユンハンス
バウハウスウオッチとして真っ先に名が挙がるのが、ユンハンスが展開している“マックス・ビル バイ ユンハンス”だろう。
なぜならモデル名のマックス・ビルとは、“バウハウス最後の巨匠”と称された同校出身のデザイナーであり、彼が1961年に起こした腕時計デザインをほぼ忠実に再現したコレクションだからだ。
シンプルで奇をてらったところがないミニマルなデザイン。それでいて極めて高い視認性を実現した点など、まさにバウハウスデザインが掲げた機能主義的な思想を具現化したモデルと言えるだろう。
加えて見逃せないのは、優れた生産性を両立させた点にある。
印刷仕上げによるインデックス然り、細身のラグを持つケース然り、構造自体がシンプルゆえに作りやすく、生産コストを押さえることが可能だったのである。事実、今日でもクォーツモデルで9万6120円〜、手巻きモデルで11万8800円〜と、価格は非常に良心的だ。マックス・ビルのインダストリアルデザイナーとしての才能も発揮された1本と言える。
しかもクォーツ、手巻きモデル以外にも、自動巻き、さらに電波クォーツモデルまで用意されている。このラインナップの豊富さが、初心者から時計好きまで幅広く支持される理由のひとつだ。
マックス・ビルって?
スイスのウィンタートゥールで生まれたマックス・ビルは、1927年、絶頂期にあったデッサウ時代のバウハウスに入学する。そこで2年間、創設者のヴァルター・グロピウスほか、当時最高峰のデザイン教授たちに師事し、デザインを学んだ。29年、チューリッヒに移った彼は、建築家、画家、グラフィックアーティスト、彫刻家、広告デザイナー、プロダクトデザイナーとして多分野で活動しはじめる。彼の当時の代表作にコンクリート・アートの“一つのテーマに対する15のバリエーション”(1935〜38年)がある。
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タンジェント
ノモス グラスヒュッテ
続いて取り上げるのは、1990年創業と後発であったノモス グラスヒュッテを、一躍ドイツを代表する時計メーカーまで押し上げたヒット作、タンジェントである。デザインモチーフは戦前のA.ランゲ&ゾーネが手がけた腕時計で、文字盤にはいかにもバウハウス的な5つの数字のタイポグラフィが採用されている。
タンジェントは1992年の初出から、その意匠をほとんど変えることなく製造されるロングセラーだ。
スモールセコンド仕様、ブルースチール針などクラシックな意匠を取り入れたタンジェントは、ユンハンスのマックス・ビルとは趣が異なり、また違った魅力が味わえる。ケースサイズも35㎜と小振りで、腕なじみも良く、快適な装着感を実現している点も大きな魅力と言えよう。
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グロピウス
Dufa(ドゥッファ)
最後に手軽に楽しめるバウハウスウオッチとして、ドゥッファのグロピウスを挙げたい。かつてクロックの名門として名を馳せた同社が2013年より展開しているのが、バウハウスの巨匠にオマージュを捧げるウオッチコレクションである。
グロピウスは、バウハウスの創立者であり、近代建築の4大巨匠のひとりに数えられるヴァルター・グロピウスにちなむ3針コレクションだ。
ドゥッファのコレクションで特筆なのが、バウハウス流でありながらも、どこかにワンポイント個性を加えて、オリジナリティーを高めている点であろう。
例えばグロピウスでは、一般的には印刷仕上げとなっていることが多いインデックスがアップライト仕様だ。コストは上がるが、文字盤に立体感を与えることで陰影が生まれ、シンプル顔ながらも存在感がグッと引き立つ。
また3万円台という手頃な価格だが、ドーム型のミネラルガラス風防を採用してクラシックな雰囲気を演出するなど、ディテールにも結構こだわっている。バウハウスウオッチの入門機としてもおすすめできる1本だ。
文◎堀内大輔(編集部)
バウハウスと時計についてもっと詳しく
http://germanwatch.jp/history/history3/