KUDOKE
クドケ
美しいエングレーブが奏でる
スケルトンウオッチの妙
機械式腕時計の最大の魅力。それは心臓の鼓動のごとく一定のリズムで動き続けるムーヴメントであろうか。しかも、歯車が複雑に絡み合い、いかにも機械然たる様は、男の琴線に触れる要素を多分に秘めている。しかしながら、元来文字盤に覆われているため腕に着けた状態でそれを楽しむことはできない。これを文字盤側からでも楽しめるようにと考案されたのがスケルトンウオッチだ。クドケはドイツブランドのなかでもこのスケルトンウオッチを得意とする。
クドケの最大の特徴はすべてのコレクションが手作業で仕上げられる点だ。デザインから図案のスケッチ、パーツの切り出しからムーヴメントの組み上げに至るまで、その一切を手作業で行う。そのためひとつの腕時計を仕上げるためには数週間を要するという。
スケルトンウオッチのベースは、懐中時計用の手巻きムーヴメントであるユニタス6498。これを分解し、なんとワイヤーカット放電加工機ではなく、自らが糸鋸で地板に一つひとつ錐で穴を開けて切り抜いていく(写真❷)というからなんと古典的なことか。そのため最低1日、複雑であれば2日はかかるという。機械を使えば数時間で終わるところを、あえて時間と手間のかかる手法を採用しているのだ。
糸鋸で肉抜きされたムーヴメントのプレートは、次にエッジの面取り作業(写真❸)に移る。まずダイヤモンドカッターで削り、荒いゴム砥石で磨いた後、3ミクロン、続いては1ミクロンのゴム砥石と、同じ面に対して4回ほど作業を繰り返して丁寧にならしていく。そうして美しい面に仕上げていくというわけだ。
そして、クドケ氏の手作業へのこだわりはなんとメッキ処理にまで及ぶ。彼のアトリエには立派なメッキの機械が据え付けられているのはそのためだ。独立時計師といえどメッキ処理までも自らが行うというのはあまり聞いたことがない。しかし、その理由は単純だった。上に掲載した彼の手がけた時計(写真❶)を見るとわかるが、場所によってメッキの色が違う。つまり1色ではないのだ。手間がかかるため作業を受けてくれる業者がないことから自分でやっていると言うのである。しかも「ピンクゴールドメッキはあまり必要ないが、イエローゴールドとロジウムは電圧の微妙な調整が必要になる」と言うぐらいにその色合いにもかなりこだわる。そんなやりとりを業者とするのであれば、自分でやったほうが早いというのもわからなくはないのだが・・・。
受けやプレートだけでなく、歯車などのマイクロパーツにも自らがメッキを施す。左の2個が処置前、右がメッキ処理されたもの
(左)メッキ処理が終わると、大胆に肉抜きされたプレートに彫金が施された受けを組み上げて図柄を作っていく(中)針も自製するクドケ。磨きながら成形したのち、最後にバーナーで表面に熱を加えて青焼き硬化処理が施される(右)歯車などのムーヴメントのパーツも一つひとつ組み上げられる
彼は「手作業は私の哲学」とも豪語する。この言葉が単なる虚勢ではないことは、これまで見てきたプロセスからもわかるだろう。筆者は今年8月に初来日したクドケ氏にインタビューをさせていただいたが、その中で、手作業にこだわる理由についてこう語っていた。
「機械を使ったのではどこでも同じになってしまう。自分までそんなことしてもしょうがないって思います。自分はあくまでも独立時計師です。やっぱりほかにはできないことで誇れることと言ったら、自分にしかできない時計を自分の手で作ることだから」
完成した時計はひとつとして同じものが存在しない。まさにこれこそが機械ではぜったい成し得ない手作業ならではの味わいであり、クドケのブランド・アイディンティティにほかならないのである。それにしても年産60〜70本。いまやバックオーダーを抱えるほどだと言うが、クドケ氏の頭の中には今以て生産性という考えは微塵もなさそうだ。
(文◎菊地吉正/写真◎神辺シュン)
独創性に富んだ個性豊かなコレクション