軍用時計を基にした
無骨で味わい深いデザイン
欧州の景気後退の影響もあり、近年は堅実な作り、デザインの時計が好まれる傾向が顕著となっている。その傾向を象徴するのが過去のアーカイブスに範を得た復刻モデルのトレンドだろう。ここ数年は毎年のようにスイスの有名ブランドがヒストリカルモデルの復刻を手掛けており、その流れがドイツの時計ブランドにも影響を与えているのだ。
ただし、各社ごとにアイコンとなる歴史的モデルを復刻する傾向が強いスイス勢に対して、ドイツの時計ブランドは少々異なるアプローチを見せているのが面白い。端的にいうと、復刻時計の多くが第2次世界大戦期の軍用時計をモチーフにしているのだ。なぜ復刻モデルの多くが軍用時計なのか。その理由はドイツの時計の歴史にある。
ドイツ時計はその歴史のなかで軍用時計を中心に時計製造の技術、デザインを進化させてきた。特に、ナチス政権下の第2次大戦には主戦力であった空軍の作戦遂行のためにドイツ国防省が空軍服務規程を発行し、規定に沿ったナビゲーションウオッチの開発と製造を推進。大戦で壊滅的な打撃を受けたドイツ時計が1950年代に復活する土台となったのも、東西冷戦下での軍用時計製造であった。近代のドイツ時計の歴史は、軍用時計開発の歴史と常に連動しているのだ。(ドイツ軍用時計についての詳細は“HISTORY”参照)
その無骨で堅牢な作り、見やすいデザインは、まさにドイツ時計を象徴する質実剛健さを体現している。ドイツ時計の歴史に想いをはせつつ、ヴィンテージデザインの時計を愛用してみるのも面白い。(文◎船平卓馬)
ドイツ軍用時計のDNAを受け継ぐ現行モデル