芸能人の愛用時計

塩見 三省-男の肖像時計の選択(パワーウオッチVol.57-2)

塩見さんが愛用している腕時計はこの2本。劇団の先輩・岸田今日子さんへの思いが詰まったスウォッチ(写真右)と、父親の形見であるアンティークのオメガ(写真左)。スウォッチはベルトを交換済み。オメガのほうは一度、百貨店へ修理に出したことがあるとか

 

人はときに、腕時計と自分の大事な誰かを重ね合わせる。俳優・塩見三省さんもその一人。肌身離さず身に着けるスウォッチには、2006年に他界した女優・岸田今日子さんへの思いがこめられているという。

「今日子さんは劇団(演劇集団 円)の先輩なんですけど、公私ともにずっとお世話になってきて……。僕にとっては姉のような、母のような存在でもありました。その今日子さんが亡くなったとき、香典返しの一部を使って購入したのが、このスウォッチです。ホントに安いやつなんですけどね。食べたら消えるもの、使ったらなくなるものではなく、何か日常的に扱えるものに代えたかった。そう考えると、腕時計が僕のなかで一番グッと来たんです。スウォッチを選んだのは、これぐらいが僕の身の丈に合っているかな、と」

以来、塩見さんにとってスウォッチは特別な存在となった。

「やっぱり『時を刻んでくれるもの』ということで、彼女が姿かたちを変えて、ここに生きているという感じがするんですよ。大袈裟に言ってしまえば、ね。買ってよかったと思います」
腕に巻いたとき、ふと亡くなった人の面影が浮かぶ。塩見さんには、そんな腕時計がもう1本ある。

「もう40年ぐらい前に亡くなった親父が使っていたアンティークのオメガです。長い間、ボロボロの感じで置いてあったんですけど、結婚式や授賞式などのお祝いの席にはいいかなと思って、修理に出しました。動かない時期もあったんですけど。それはそれで、飾りみたいな形で使っていました」

もともと私生活では「腕時計へのこだわりが、あまりなかった」という塩見さん。俳優としては、腕時計よりも「メガネ」に気を遣っているそうだ。

「これは表現しにくいんですけどね。メガネをかけてピッタリになる、ってことをあえてハズしたい。例えば、八百屋さんの役をやるとします。そのとき、いかにもそれらしいメガネって必要ないと思うんですよ。八百屋さんの店先にいれば、八百屋さんだってことはわかるわけですから。説明に説明を重ねるのって、現代的じゃないかなと。まあ八百屋さんの役をやったことはないですけど(笑)」

私生活でも仕事でも、自然体を守る塩見さん。今後の目標を聞くと、「映画でも撮ってみたいと言えばカッコいいんだろうけど、まったくそんなことない(笑)。もっと茫洋としたことに力を尽くせればいいかな」という答えが返ってきた。

 

塩見 三省 俳優)
SANSEI SHIOMI 1948年1月12日生まれ。京都府出身。同志社大学卒業。芥川比呂志らによって結成された演劇集団「円」に、1978年から参加。以降、テレビ、映画、舞台などで活躍し、実力派俳優としての地位を確立させる。映画『スワロウテイル』『血と骨』『クローズZERO』『悪人』など、数多くの代表作を持つ。最近では、江口洋介主演のドラマ『スクール!!』(フジテレビ系列)にて、副校長の脇谷九重郎役を好演した。特技はアメリカンフットボール。

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