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第6回 オリジナルクロノグラフの夢を実現2002-09-28
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夢の実現にスイスへ
 人は夢を持つことが必要だといわれる。10年前、私には3つの夢があった。

①手狭になった店舗を広げ、コレクションしていた時計を展示する博物館を作ること。 ②自分の理想をすべて兼ね備えたオリジナル腕時計を作ること。 ③腕時計に関する信頼できる本を出版すること。

 ①は1996年に旧店舗から150メートルほど離れた横須賀駅前に時計台付きの新店舗(もちろん腕時計博物館も)を新築することができた。 次に、②を実現するために取り組んだのが太安堂オリジナルの時計だった。時計業界外からの大資本による買収劇で、機械は中級品のETA社製ムーヴメントを使用しながら、ユーザーの興味を惹く物語を作り上げ、派手な宣伝により高価格で販売する。そういった時計会社が売り上げを伸ばしていた。時計店の3代目であり、1級修理技能士として修理に長年携わってきた私にとって、よい時計はよいムーヴメント(機械)を使用していなければならないものだ。昔からの時計点にとっては、信じられない事態に陥っていたのである。

 そこでムーヴメント、外装共に納得できる腕時計の実現に向けてスタートし、自社一貫製造行っている数少ないマニュファクチュールであるJ社、Z社、そしてごく一部だがJ社のムーヴメントを利用しているI社に話をした。I社などは、すでに製造を中止した自社製ムーヴメントをストックしているともいっていた。

 しかし、前例がないということで、3社のいずれからも断られてしまった。香港や日本のメーカー、あるいはスイスの中級メーカーなら別だが、スイスの高級時計メーカーが日本の小さな一小売店のために時計を製作するなど、可能性はゼロに等しく、残念だが当然のことだと思う。幸いなことに1998年のバーゼルフェアで、ミネルバ社の前社長フレイ氏と会うことができ、夢が実現に向けて動き出したのである。

 ミネルバ社は当時、ストップウオッチと1940年代の自社製キャリバー48の腕時計を合わせて年間3000本程度生産している、従業員10数名の小さな会社だったが、過去には自社製のクロノグラフムーヴメント、キャリバー20を生産していたこともある。残念ながらキャリバー20はすぐに生産を中止したが、バルジュー(バルジャックス)を使用し、クロノグラフの生産は継続していた。当店では、当時はまったく注目されずに売れ残っていたミネルバのバルジュー23と72を、1996年以降すべて仕入れて販売した実績があった。フレイ氏が当店のオリジナル時計製作を快諾してくれたのもそんなことがあったからだろう。それから1年かかったが、ヴィーナス175が50本見つかったとの連絡を受け、資金はどうしようかという心配をしながら、1999年のハーゼルフェアに飛び立った。




質にこだわった名品に
 バーゼルフェア会場のミネルバのブースで見たヴィーナス175には驚かされた。今までブライトリングなどで数多く見てきたヴィーナスをていねいに面取りし、質素なクロノグラフには珍しいジュネーブストライプが施され、遅れ進みを微調整するスワンネックも取り付けられている。仕上げの美しさはロンジンを超え、パテック・フィリップと同等といえた。

 この美しいムーヴメントに釣り合った外装を発注すべく、フレイ氏や日本の代理店である石岡商会とともに、ミネルバの外注先であるラ・ショー・ド・フォンのケース工場と文字盤工場を訪ねた。ラ・ショー・ド・フォンは高級時計メーカーが数多くあり、外注先である関連工場が集まる時計の町である。後日、私がデザインした図面を送り、ケースは何回かの修正を経たが、文字盤は1回で満足の得られるものが完成した。

 ケースは現在主流の、バフで磨いてもわからないような丸くだれたものではなく、エッジが立った1940~1950年を思わせるもの。50年の使用に耐えるように、修理職人の経験をもとに、くいつきやネジ込みを使用していない。くいつき式のベゼルや裏ブタは、長い間には摩耗して閉まらなくなる。ねじ込み式の裏ブタはネジ山も傷めるおそれがある。もちろん10年や20年ではそのような心配はないが、50年となるとそうはいかない。

 ガラス縁は、テンションリング式プラスチック風防を採用したので不要になった。デザイン上、ラインを入れてあるように見えるが、実際は胴体と一体になっている。裏ブタも3気圧防水を維持しながら、大きくシースルーにして、美しいムーヴメントがいつでも眺められるようにし、胴体に押し込み6本のネジで固定させた。足の形状にも神経を使い、正面から見た流れるようなラインと、腕に着けた時フィットするように心がけた。

 文字盤は質感のあるブレゲ数字とインデックスを、それぞれに2本の足を付け、文字盤の裏まで貫通させ、裏でかしめるという非常に手の込んだ方法を採っている。ちなみに現在は接着剤で貼り付けるのがほとんどである。

 針もブレゲ数字に負けないよう、ボリュームあるドルフィンハンドにした。クロノグラフ秒針と30分積算計の針には、青焼き針を採用した。長短針は作り直しをしたために完成が遅れる原因になった。

 針やリューズ、プッシュボタンは金メッキにした。金無垢は柔らかく耐久性に劣るので、実を取ったのである。褪色したときには交換すればいいし、そのための交換部分も用意してある。

 ここまで考えて作られた時計に満足し、本当に時計を愛し、価値のわかる人に所有してもらうためにも、派手な宣伝は避けて、大切に販売していきたいと思っている。
※この記事は本誌第6号(2002年9月28日発売)から第30号(2006年9月28日発売)にわたって掲載された人気連載企画です。
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